壮年賢者のひととき

茜琉ぴーたん

文字の大きさ
上 下
15 / 80
10月・勇者はあどけない

14

しおりを挟む

 10月初旬の日曜のこと。


 その夜、棚卸たなおろしお疲れ会兼ハロウィンパーティーが駅近くの飲食店を会場に開催された。

 20代から30代の若手スタッフを中心に疲れ切った管理職も数名、見慣れた配送員や所属外の者もチラホラ。

 レジ部門の陽菜子ひなこをはじめ女性陣のギャル仮装はおおむね好評で、自撮りはもちろん記念撮影もなされた。


 そしてお疲れ会の会場から商店街の本通まで歩いて5分、夜中も営業のプリントシール専門店で女性陣は最後のギャル気分を楽しんだ後、それぞれの帰路に着くのだった。





 陽菜子はムラタに車を置いて同僚の車で来ていたのだが、会の途中で嘉島かしまから「送るから呑んでもいいよ」と耳打ちされ、お言葉に甘えることにした。

 なので彼女はご機嫌な足取りで、しかし

「…家までそれで帰るの?」

二人きりになってはじめて、男の目に陽菜子の異様さが目立ってくる。 


 数日前、「こんな仮装します」と女子高生姿のサンプル写真を陽菜子から送ってこられ、嘉島は絶句した。

 可愛いのは当然のことだが、これを見世物にされると要らぬトラブルを生みかねない。

 なんたって、幹事はあの松井まついである。


 約2週間前のパンケーキ騒動で陽菜子が「恋人ができた」と宣言して以来、松井は大人しくなった。

 だが最近、相手が誰なのか周囲に聞き回っているらしい。

 ヒナコのSNSも随時チェックし、投稿から男性の影を感じない、嘘ではないかと踏んで再び陽菜子の周りをウロチョロし始めている。

 おまけに、お疲れ会の発案は嘉島なのだが、松井を幹事に任命したら知らぬ間に「ハロウィン仮装」が付随していた。


 当初、懇親こんしんねぎらいのため嘉島は不参加のつもりだった。

 しかし棚卸しで陽菜子に構えずもどかしい所に妖しい仮装をされてたまるか、と若手の集まりに乗り込んで来たのだ…サイフになる覚悟で。

 幸いというか、乗り合わせてきたのにハンドルキーパーが呑んでしまい帰りの足がない者が数人出たので、松井に送ってもらうよう嘉島はチーフ権限で直々に頼んだ。

 なので食事した店からこっちはけた筈である。


「まずいですか?車に乗ってしまえば関係無いかと」

「今、おまわりさんに会ったら俺は連れて行かれるよ」

 陽菜子はギャルメイクに有名私立女子校のジャンバースカートを合わせている…更に飲酒。

「成人してますから!大丈夫ですよ!」

「ま、そうか。いや、明るい所でもっとちゃんと見たかったなァ」

「あら、どこか寄ります?」

 若い恋人は無邪気にスカートを翻し軽快に歩くので、

「…補導されるといけない。うちに来なさい。俺は明日は昼からだけど、君は休みでしょ?俺の出勤の時に会社まで送ってあげるから、このまま車は置いて帰って。ゆっくり休みなさい」

と、嘉島はコインパーキングの精算機の前で煙草を咥える。
「……お家って…何もしません?」

嘉島が車に乗り込むと陽菜子は両腕を自分で抱き、初めてのお誘いにわざとらしく怯えて見せた。

 シートベルトを締めながら嘉島はそれを横目で見やって、

「……何かはするよ」

と応えてエンジンをかける。

「えっ」

「泊まって行けって言ってるんだけど、分かってるかな?」

予想外の回答に驚き照れる陽菜子に顔を近づけ、嘉島が念を押した。

「は、はい…お泊まり会」

「…ちょっと違うなァ…まァいいや、行こう」

運転用のメガネをかけ、暗がりに車を出す。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

隠れドS上司をうっかり襲ったら、独占愛で縛られました

加地アヤメ
恋愛
商品企画部で働く三十歳の春陽は、周囲の怒涛の結婚ラッシュに財布と心を痛める日々。結婚相手どころか何年も恋人すらいない自分は、このまま一生独り身かも――と盛大に凹んでいたある日、酔った勢いでクールな上司・千木良を押し倒してしまった!? 幸か不幸か何も覚えていない春陽に、全てなかったことにしてくれた千木良。だけど、不意打ちのように甘やかしてくる彼の思わせぶりな言動に、どうしようもなく心と体が疼いてしまい……。「どうやら私は、かなり独占欲が強い、嫉妬深い男のようだよ」クールな隠れドS上司をうっかりその気にさせてしまったアラサー女子の、甘すぎる受難!

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

〈社会人百合〉アキとハル

みなはらつかさ
恋愛
 女の子拾いました――。  ある朝起きたら、隣にネイキッドな女の子が寝ていた!?  主人公・紅(くれない)アキは、どういったことかと問いただすと、酔っ払った勢いで、彼女・葵(あおい)ハルと一夜をともにしたらしい。  しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……? 絵:Novel AI

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

処理中です...