76 / 76
2024(最終章)
76(最終話)*
しおりを挟むガーデンの真ん中にあるモニュメントの前で、私はやっと地面に降ろされた。
「遼平さん、ビックリしたよ」
「ふふ、力を誇示してみた」
「気分良い?」
意地悪そうに問い掛ければ、
「あずちゃんは僕のものだ!って自慢できたんだ、気持ち良いに決まってる!」
とここ一番の爽やかさで返って来る。
『新郎新婦さまの新たな人生の門出に、盛大な拍手を!』
私も誇らしいな、立派な旦那さまと一緒になれて。
鳴り止まぬ拍手のシャワーに照れ照れと手を振り返す。
「(……言うべきかな)」
遼平さんの同僚さんたちがソワソワと、進行状況を見ながら今にも駆け出して来そうだ。
たぶん胴上げだろう、司会者さんが閉式をコールすると群がって来ると思われる。
「新婦さま、横にずれましょうね」
ドレスに隠れた介添さんも、そうリークしてくれた。
体育会系にはよくあるノリなのかもしれない。
『お式は以上にて結びでございます…皆さまのご協力により、恙なく進行できましたことを、お礼申し上げます…それではこれより披露宴のご準備に入られますので、新郎新婦さまはお先に退出されます…』
そこまで聞けば、同僚さんたちの反射神経たるやさすがだった。
私は介添さんと共に芝生へと離れ、「え?あずちゃん?」と戸惑う遼平さんは黒い群衆に囲まれる。
「おい、お前ら」
「恒例だから。分かってたろ」
「おい、おい、」
「3回な、しっかり持てよ、絶対落とすな、…せーのっ‼︎」
「わーっしょい、わーっしょい、わーっしょい、」
3度高く舞う遼平さん、戸惑いは早いうちに消えてすっかり笑顔になっていた。
円陣を組んで笑い合う遼平さん、このサプライズは良い方向に働いたようだ。
このノリで新婦も担がれることがあるらしい、ふいと同僚さんがこちらを向いたが介添さんが大きくバツを出して拒否してくれた。
ふふと愛想笑いでいなして、髪の崩れた遼平さんの隣へ戻る。
「サプライズされちゃったね」
「あの勢いだと誰にも止められないだろうしな…薄々、分かってはいたけども」
「良い同僚さんたちだね」
「あぁ」
以前ぼんやり聞いたのだが、遼平さんの同期でも後輩イジメに染まってしまっている人はいるのだとか。
今回の参加者はクリーンな人ばかり、この世代で協力して良い職場環境を拡げていけたらと…遼平さんは志を抱いている。
私たちみたいな特殊な出逢いはこれ以降現れないのだろう、そう考えるとちょっぴり特別感もある。
「披露宴も頑張ろうね」
「あぁ、その先も、ずっとな」
「かっこいー」
堂々と胸を張って、私の旦那さまは私の手を引き歩く。
見下ろしてニコと笑い、たまに「可愛い」とデレる。
凛々しさと柔らかさのギャップ、それを楽しめる私だけの幸せ。
これから肥えても痩せても、家族が増えても、一緒にのほほん生きていけたら良いな。
「遼平さん、愛してる♡」
「僕の方こそ、あずちゃんのこと、愛してる!」
周りのスタッフさん達もつられて微笑む。
控え室に戻る間でさえ、ラブラブな私たちは誰にも止められないのだった。
おわり
2
お気に入りに追加
39
この作品は感想を受け付けておりません。
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
【R18】隣のデスクの歳下後輩君にオカズに使われているらしいので、望み通りにシてあげました。
雪村 里帆
恋愛
お陰様でHOT女性向け33位、人気ランキング146位達成※隣のデスクに座る陰キャの歳下後輩君から、ある日私の卑猥なアイコラ画像を誤送信されてしまい!?彼にオカズに使われていると知り満更でもない私は彼を部屋に招き入れてお望み通りの行為をする事に…。強気な先輩ちゃん×弱気な後輩くん。でもエッチな下着を身に付けて恥ずかしくなった私は、彼に攻められてすっかり形成逆転されてしまう。
——全話ほぼ濡れ場で小難しいストーリーの設定などが無いのでストレス無く集中できます(はしがき・あとがきは含まない)
※完結直後のものです。
イケメンドクターは幼馴染み!夜の診察はベッドの上!?
すずなり。
恋愛
仕事帰りにケガをしてしまった私、かざね。
病院で診てくれた医師は幼馴染みだった!
「こんなにかわいくなって・・・。」
10年ぶりに再会した私たち。
お互いに気持ちを伝えられないまま・・・想いだけが加速していく。
かざね「どうしよう・・・私、ちーちゃんが好きだ。」
幼馴染『千秋』。
通称『ちーちゃん』。
きびしい一面もあるけど、優しい『ちーちゃん』。
千秋「かざねの側に・・・俺はいたい。」
自分の気持ちに気がついたあと、距離を詰めてくるのはかざねの仕事仲間の『ユウト』。
ユウト「今・・特定の『誰か』がいないなら・・・俺と付き合ってください。」
かざねは悩む。
かざね(ちーちゃんに振り向いてもらえないなら・・・・・・私がユウトさんを愛しさえすれば・・・・・忘れられる・・?)
※お話の中に出てくる病気や、治療法、職業内容などは全て架空のものです。
想像の中だけでお楽しみください。
※お話は全て想像の世界です。現実世界とはなんの関係もありません。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
ただただ楽しんでいただけたら嬉しいです。
すずなり。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる