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2023
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しおりを挟む「なに、お姉さん、もう青木とシちゃったの」
「余計なお世話です!離して!」
ブンと振っても、邑井の手が解けない。
自転車のカゴでお土産の箱がコンコン揺れる。
お巡りさんでも通り掛からないかな、力任せに振り払おうとしたら、
「あずちゃん!」
とスーパーヒーローが署の方から駆けて来た。
「遼平さん!」
「あずちゃん…邑井さん、その手を離して下さい」
ギンと睨まれた邑井は、舌打ちをかまして私の腕をようやく離す。
肘の下の柔らかい所に、赤いアザみたいな痕が付いていた。
遼平さんは邑井と私の間に割り込んで、自転車が転けないようハンドルも握ってくれる。
「何だよ、青木、お前偉くなったもんだな。防災訓練でナンパしてんじゃねぇよ」
「…自分たちは、それ以前からの付き合いです。それに勤務時間中に不真面目なことはしていません」
「けっ、ホントかよ…お前、あのデブが好きだったんじゃねぇのかよ」
「…はい。その気持ちは今でも変わっていません」
あまりに真っ直ぐに遼平さんが答えるので、邑井は豆鉄砲を食らったみたいにポカンと固まる。
しかしあの太った姿と私が繋がらないから、まるで私との付き合いが遊びかのように感じたみたいだ。
「は?じゃあこのお姉さんはツナギかよ。どこが真面目なんだよ」
「…あずちゃん、言って良いかな」
どう転ぶか分からないが、このまま遼平さんが遊び人の汚名を被ったままでは済ませられない。
私は黙って、「うんうん」と首を振った。
「…邑井さん、あのまん丸だった女の子が、この舞岡さんです」
「ハァ?全然違うじゃんか」
「運動して、痩せたんですよ。初対面からはもう5年ほど経っています。その間に少しずつ肉が落ちて…彼女は努力で痩せたんですよ」
「あのデブが、こんな可愛くなんの⁉︎女って分かんねーな!」
遼平さんの額にも青筋が走り、しかしまだ遠慮が見える。
防災訓練の時にも感じたが、公務員というのは市民への応対に配慮をしなければならないのだろう。
上から目線になってはいけないし、不真面目に見せてはいけない。
だからかつては同業だったのに、今は一般市民の邑井は立場を利用して高圧的に出られるのだ。
しかして私も一般市民、邑井と闘うなら同じ土俵の私の方が都合が良い。
「…あの、私の体型はともかく。個人の恋愛にどうこう言われたくないです。さっき掴まれた所、アザが残ったら傷害で被害届を出します」
「…チッ」
「今なら許します。これ以降、遼平さんと私に関わらないで下さい」
「……わあったよ…フン…」
「この腕、写真撮っておきますから」
「分かった、分かったわ!」
邑井は踵を返し、署の方角へと戻って行く。
元々は向こうから来て、私を見つけたからここまで歩いたのだろう。
「…遼平さん、大丈夫?」
「……」
遼平さんを見上げるも、彼の表情は硬い。
納得していない様子、このままでは済ませないという雰囲気。
「遼平さん、あの人がそこ通り過ぎたら署に帰って」
「……あずちゃん、僕は…情けなくて泣きそうだ」
「…なんで?」
ハンドルを掴む彼の手がブルブルと震える。
武者震いか、それとも。
「…やっぱり、行ってくる!」
「え、遼平さ」
彼は大股で走り、署の門まで到達していた邑井へ追い付いた。
私も顛末を見守ろうと、自転車を押して2人へ近付く。
「邑井さん、待って下さい」
「…なんだよ、話は終わったろ」
「いえ、あずちゃんに…僕の恋人に、体型や顔を馬鹿にしたことを謝って下さい‼︎」
ここ一番の大声を、遼平さんは張り上げる。
恫喝と取られはしないだろうか、私はひとりヒヤヒヤしてしまう。
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