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 あれからひと月、邑井の脅威なんて忘れかけていた5月。

 久々のお使いで消防署方面へと出掛ける機会があった。

 とはいえ前社屋よりも遠くなって、普通なら社用車を使う距離である。

 しかし今日は営業さんが車を使っており、足が無い。

 そこで専務が「私の通勤用を使いな」と電動アシスト付き自転車を貸してくれた。

 カゴも付いてるしタクシーより安上がりだし仕方ない、と私はそれにまたがり意気揚々と出掛けたのだった。


「(遼平さん、外で訓練してないかな)」

 用事が済んだら署の前の歩道を通ろう、ペダルを漕ぐ足に力が入る。


 ちなみに、後輩がいるのになぜ私がお使いに出たのかというと、いくつか理由がある。

 私の後輩とは、今年入ったばかりの新人たちと麻未ちゃんだ。

 新人は営業と工場の方に回り、事務には1人も振り分けられなかった。

 そしてその麻未ちゃんなのだが、なんと先日ご懐妊が発覚、とてもお使いなど行かせられなくなった。

 お相手はかねてより交際していたという恋人で、授かったと同時に入籍もしており…いつの間にか苗字も変わっており、詳細を聞いた時には思わず拍手して祝ってしまった。

 先を越されたと思わんでもない、周囲にもそう思われているのではないかと疑心暗鬼になる。

「(でも、私だって彼氏いるもーん)」

 職場では、私ははっきりと「彼氏できました宣言」をしている。

 温泉旅行のお土産もそう言って配ったし、誰とは明かしてないが「すごくカッコいい人」と伝えている。

 私ももうすぐ幸せな結婚報告が出来るんだ、仕事にも身が入る。
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