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2023

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 やっぱり求婚のつもりだったんだ、困難さも無く歩いて表へと戻る。

 専務は「おっちょこちょいねぇ」と笑い、自身でも「まったくねぇ」と呆れた。

 もう訓練はほとんど終わっていて、署長さんから簡単な挨拶をして解散となった。

 邑井のことは夜にでも聞いてみようかな、それよりプロポーズの答えが先か。

 待機姿勢もカッコいい遼平さんにラブビームを放っては、ひとりムフフと笑う。



「では、以上です」

 各団体がバラバラに帰り出した時、邑井がまた遼平さんに近付くのが見えた。

 うちは社屋に戻って昼休憩の時間だったので、多少の猶予はあろうかと様子を窺うことにした。


「青木、お前さっきの女の子、手ぇ出してねぇだろうな」

ガラの悪い絡み方、邑井は良いところが無い。

 遼平さんは

「出してませんよ、お帰り下さい」

と出口を手で示す。

「ふーん、せっかく可愛かったのに。相変わらずヘタレでやんの。あっそう…あ、お前はデブが好みなんだっけか。あの担いだ女。あれから進展あったのかよ」

「(……!)」

 悔し紛れに放った邑井の指す女とは、かつての私のことだった。

 太った私を好きだという遼平さんの趣向を馬鹿にしたいのだろうが、人をさげすむ材料にされたことが悲しい。

 そして邑井はやはり遼平さんを虐めていたメンバーだった。

 葛藤しながらも言いなりになっていた遼平さん、今は克服したのだろうか。

 本当は恐いんじゃないのか、割って入り助けようかと考えるも勝てそうな見込みが無い。

「……」

「だんまりか、市民の質問に答えらんねぇのかよ、消防士さんよぉ」

「…業務がありますので、失礼しますね」

遼平さんは後片付けを済ませて、建物へと戻ろうと邑井へ背を向ける。

 これ以上敷地内で騒いでも、邑井が悪者になるだけだ。

 だから邑井も出口へ向いたのだが、

「……!」

動線上に居た私は奴と目を合わせてしまった。

 盗み聞きしてたみたいで感じ悪いか、帰らずに留まっていたから不審だったか。

 ずんずんと近付いて来るが、後ろに出口があるのだから過剰に警戒するのはおかしい。


「舞岡さん?社長トイレから戻ったから帰るわよ、」

出口に向かっていた専務がタイミング良く声を掛けてくれた。

 咄嗟に私は「はいぃ」と、わざとらしくないよう努めて出口へ振り返る。

「(近くの会社なのかな…嫌な人だな…)」


 背後に感じる視線と圧。

 敷地を出て歩道へ抜けると、私の歩幅は大きくなる。

「どうしたの、そんなに急がなくても」

「お、お腹すいたので…早く帰りましょう」

「あら、まぁそうね」

専務は納得して、しかし訓練で疲れたのだろうスピードは変わらない。

 私はとにかく後ろに居るかもしれない邑井の視界から逃げたくて、足早に信号付き横断歩道まで歩いた。



 その後は何事も無くうちの社屋に着き、お昼を食べて少し休憩できた。

『今日はお疲れさまでした。働く遼平さんが見れて、嬉しかったです。』

そうメッセージを送信、終業後の連絡を待つことにした。
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