22 / 44
2022・初お泊まり
22
しおりを挟む「お待たせ。はい、これカギね」
「な、なんで別部屋なの?」
クリスタルみたいな透明な棒がぶら下がったキーを渡されて、私は恨めしそうに彼を見上げる。
ひと仕事終えた風な遼平さんはもうエントランスの隅のエレベーターへと視線を移しており、でもノールックで私の荷物を持ち上げてくれた。
「何でって、その方が楽だよ。風呂も化粧も」
「いや、そうだけどさ…」
「それぞれの部屋に内湯も付いてるよ」
「じゃあ、私の部屋のお風呂に遼平さんが来てくれたら」
「何を言ってるの。せっかくのひとり温泉が満喫出来るんだからあずちゃんも楽しんだ方が良いよ。僕は男だから露天も好きに入るけど、女性は躊躇いもあるだろうし」
違うの、二人でお泊まりって不便もあるけどそれが楽しいんじゃない。
初めて見せるすっぴんとか、意外と悪い寝相をいじったり、寝起きの顔にキュンってなったりするのがミソなんじゃないの。
ぱくぱく空気を吐いているとホテルマンが「どうぞ、こちらへ」と先導してくれた。
「はい。あずちゃん、こっち」
「はい…」
片側が透けたエレベーターからは温泉街が一望できて、ぐんぐん上昇して行く高度とは裏腹に私のテンションはどんどん降下して行くのが分かる。
私を抱く気は無いんだ、一緒に泊まる価値が私には無いんだ。
というか遼平さんは珍しく取れた連休を使って、本当にリフレッシュしに来ているのだろう。
頃合いだからカップルらしいことをしてくれただけ、私がどれだけワクワクしていたかなんて分かってくれないんだ。
私にはしたくないってことなのかな、私もそんなに純じゃないんだけど。
相手と機会に恵まれなかったから取っておいた純潔、熨斗付けて遼平さんに貰ってほしいのに叶いそうにない。
「(温泉…湯気…もくもく…)」
ぼうっと現実逃避しているとエレベーターは10階に到着、「そんなに高いんだぁ」なんて虚な目で表示板を睨む。
同じ間取りの部屋だからと遼平さんの部屋に二人とも通されて、一気にアメニティや食事の時間の説明を受けた。
和洋室で床はフローリング、畳の小上がりに少し低めのベッドが設置されている。
茶色を基調としたシックな設えで、部屋の奥には温泉を引き上げた専用の内湯も付いていた。
いっそこの部屋に居座ってやろうかしら、ホテルマンが去ってため息をこぼせば、さすがに遼平さんも気付いたようだ。
「あずちゃん、どうしたの。疲れた?」
「……あの、お、お泊りだから…その、一緒のベッドで寝るものだと…思って…」
「あずちゃん、」
もう顔は真っ赤だってことが分かる、耳までじんじんして居た堪れなさと羞恥心で逃げ出してしまいたい。
でもここの価値観の相違は埋めておかねばならないし、私を納得させられる弁明ができるのならば是非聞いてみたいとそれくらい振り切れていた。
「遼平さん、も、もう大人なんだし、一緒に旅行に来て別々の部屋ってそんな…私も自信を失くすって言うか…か、悲しい…くて…」
「……」
「私、遼平さんのことが好きだから、も、もっと仲良くっ…あの、それだけじゃないんだけど、せっかくお泊り出来るから、その、」
これって女の方から請わなきゃいけないことだっけ、吐き出した言葉に後悔はしていないけど客観的に自分を捉えて消え入りたくなる。
よくよく考えれば処女なんだし遼平さんを悦ばせる自信がある訳じゃないし、「抱いてよ!」なんて自意識が過剰過ぎた気もする。
「あずちゃん、」
遼平さんはすぅと息を吸い項垂れる私の両肩を掴んで、
「僕は、あずちゃんとは清い仲でいたい。婚前交渉はしなくて良いと思ってる」
と今日いちイケメンな顔で答えた。
2
お気に入りに追加
39
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

イケメン彼氏は警察官!甘い夜に私の体は溶けていく。
すずなり。
恋愛
人数合わせで参加した合コン。
そこで私は一人の男の人と出会う。
「俺には分かる。キミはきっと俺を好きになる。」
そんな言葉をかけてきた彼。
でも私には秘密があった。
「キミ・・・目が・・?」
「気持ち悪いでしょ?ごめんなさい・・・。」
ちゃんと私のことを伝えたのに、彼は食い下がる。
「お願いだから俺を好きになって・・・。」
その言葉を聞いてお付き合いが始まる。
「やぁぁっ・・!」
「どこが『や』なんだよ・・・こんなに蜜を溢れさせて・・・。」
激しくなっていく夜の生活。
私の身はもつの!?
※お話の内容は全て想像のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※表現不足は重々承知しております。まだまだ勉強してまいりますので温かい目で見ていただけたら幸いです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
では、お楽しみください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる