街を歩いていると、見知らぬマッチョに体を担ぎたいとお願いされました。

茜琉ぴーたん

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2022・初お泊まり

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「お待たせ。はい、これカギね」

「な、なんで別部屋なの?」

クリスタルみたいな透明な棒がぶら下がったキーを渡されて、私は恨めしそうに彼を見上げる。

 ひと仕事終えた風な遼平さんはもうエントランスの隅のエレベーターへと視線を移しており、でもノールックで私の荷物を持ち上げてくれた。

「何でって、その方が楽だよ。風呂も化粧も」

「いや、そうだけどさ…」

「それぞれの部屋に内湯も付いてるよ」

「じゃあ、私の部屋のお風呂に遼平さんが来てくれたら」

「何を言ってるの。せっかくのひとり温泉が満喫出来るんだからあずちゃんも楽しんだ方が良いよ。僕は男だから露天も好きに入るけど、女性は躊躇いもあるだろうし」

 違うの、二人でお泊まりって不便もあるけどそれが楽しいんじゃない。

 初めて見せるすっぴんとか、意外と悪い寝相をいじったり、寝起きの顔にキュンってなったりするのがミソなんじゃないの。

 ぱくぱく空気を吐いているとホテルマンが「どうぞ、こちらへ」と先導してくれた。

「はい。あずちゃん、こっち」

「はい…」


 片側が透けたエレベーターからは温泉街が一望できて、ぐんぐん上昇して行く高度とは裏腹に私のテンションはどんどん降下して行くのが分かる。

 私を抱く気は無いんだ、一緒に泊まる価値が私には無いんだ。

 というか遼平さんは珍しく取れた連休を使って、本当にリフレッシュしに来ているのだろう。

 頃合いだからカップルらしいことをしてくれただけ、私がどれだけワクワクしていたかなんて分かってくれないんだ。

 私にはしたくないってことなのかな、私もそんなに純じゃないんだけど。

 相手と機会に恵まれなかったから取っておいた純潔、熨斗のし付けて遼平さんに貰ってほしいのに叶いそうにない。
 
「(温泉…湯気…もくもく…)」

 ぼうっと現実逃避しているとエレベーターは10階に到着、「そんなに高いんだぁ」なんてうつろな目で表示板を睨む。



 同じ間取りの部屋だからと遼平さんの部屋に二人とも通されて、一気にアメニティや食事の時間の説明を受けた。

 和洋室で床はフローリング、畳の小上がりに少し低めのベッドが設置されている。

 茶色を基調としたシックなしつらえで、部屋の奥には温泉を引き上げた専用の内湯も付いていた。


 いっそこの部屋に居座ってやろうかしら、ホテルマンが去ってため息をこぼせば、さすがに遼平さんも気付いたようだ。

「あずちゃん、どうしたの。疲れた?」

「……あの、お、お泊りだから…その、一緒のベッドで寝るものだと…思って…」

「あずちゃん、」

 もう顔は真っ赤だってことが分かる、耳までじんじんして居た堪れなさと羞恥心で逃げ出してしまいたい。

 でもここの価値観の相違は埋めておかねばならないし、私を納得させられる弁明ができるのならば是非聞いてみたいとそれくらい振り切れていた。

「遼平さん、も、もう大人なんだし、一緒に旅行に来て別々の部屋ってそんな…私も自信を失くすって言うか…か、悲しい…くて…」

「……」

「私、遼平さんのことが好きだから、も、もっと仲良くっ…あの、それだけじゃないんだけど、せっかくお泊り出来るから、その、」

 これって女の方から請わなきゃいけないことだっけ、吐き出した言葉に後悔はしていないけど客観的に自分を捉えて消え入りたくなる。

 よくよく考えれば処女なんだし遼平さんを悦ばせる自信がある訳じゃないし、「抱いてよ!」なんて自意識が過剰過ぎた気もする。

「あずちゃん、」

 遼平さんはすぅと息を吸い項垂れる私の両肩を掴んで、

「僕は、あずちゃんとは清い仲でいたい。婚前交渉はしなくて良いと思ってる」

と今日いちイケメンな顔で答えた。
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