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2023
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しおりを挟む心も体も結ばれて、睦まじく過ごすこと10ヶ月。
遼平さんは試験に合格して、念願の救急救命士として働き始めた。
資格試験を受けるには所定の勤務年数か勤務実績が必要で、それがやっと貯まったとのことだ。
これまでよりもさらに責任ある行動を、と遼平さんは張り切っている。
私生活でのイベントと言えば、昨年遼平さんがうちに挨拶に来た。
結局あの初体験からそう経ってない日に、だ。
私は遠慮したのだが、彼はどうしても面通しをしておきたいと聞かず…ならばと休日に招待した。
うちの父と遼平さんは意気投合し楽しく食事をして、母も「良い人ね」と太鼓判を押していた。
何となく、このまま結婚とかしちゃうのかなーと考えつつ迎えた春。
うちの会社は今年は新人を数名採用して、下っ端の後輩・麻未ちゃんは先輩へと昇格した。
私は愛されるのが美容に作用しているのか、運動するクセもついてまた体重が減少した。
物によってはMサイズが難なく着られる、といった感じだ。
骨が浮いている訳でもなく、無駄な肉も無い。
私にとっての最適なスタイルに収まった感じがして嬉しい。
遼平さんは「もっと、腹を割ってみる?」なんて言っていたが、それはご遠慮しようと思っている。
そんなある日、毎年恒例となっている地区別防災訓練の日がやって来た。
近隣の施設や事業所が合同で行うもので、遼平さんも署員として参加するそうだ。
代表だけ来ている所もあるが、燃えやすい資材があったりする会社は大人数で参加する。
うちも同じで、社長から新入社員までほぼ全員で署を訪ねていた。
「(…かっこいー)」
ガッチリとした体、堂々とした態度。
キビキビ動いて指示を出して、凛々しい姿に胸がときめく。
「(働く彼氏の姿を拝めるとは…最高…)」
消火設備や避難の仕方の説明、遼平さんは私と目が合っても反応しない。
職務に真っ当、素晴らしいことだ。
参加者は会議室に集められて、毎度お馴染みのテキストを元に説明を聞く。
これが終わると、外で実際に消火器を使い消火訓練をすることになっている。
また逞しい姿を見れるんだ、誇らしくて嬉しい。
私はうっとりと、しかししっかりと内容を頭に入れた。
座学が済んで、ゾロゾロと参加者が屋外と出ようとしている時。
「おう、青木!」
大きな男性の声が、資料の片付けをしている教卓の遼平さんへと投げられる。
「あ、邑井さん…お久しぶりです」
遼平さんは一瞬ビクッとして、でもすぐに両足を揃えて背筋を正した。
邑井と呼ばれた男性は遼平さんに負けず劣らずの大柄な人で、工場の作業着っぽいものを着ている。
そしてつかつか遼平さんに近付いては、太い腕を振りかぶる。
「(え、)」
次の瞬間、邑井は遼平さんの厚い胸板をバチィンと叩いた。
室内から廊下にまで響く音に、皆が振り返って2人に注目する。
「…邑井さん、相変わらずですね」
遼平さんは動じることなくそう言って笑い、上手にあしらった。
「お前、昇進したんだって?良いよなぁ、俺は辞めさせられたのに」
「自業自得ですよ…表に出ましょう、訓練が始まります」
何だか異様な空気に、周りは戸惑う。
話ぶりからすると、邑井は元消防士なのだろうか。
それで遼平さんの先輩のような雰囲気、ということはこの署で一緒だった…遼平さんにパワハラをしていた先輩ということだろうか。
私たちは驚いたものの、遼平さんが平気そうなので後を追って訓練場へと出た。
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