上 下
21 / 76
2022

21

しおりを挟む

「知らない人に声を掛けて、持ち上げて力比べをするといった内容でした。自分たちは現場では救助者がどんな体格だろうが異性だろうが構わず助けますから、そうした時にひるまない度胸や社交性を養う為のなんて…取って付けた目的だったようです。実際には、重たそうな人を狙ったり、断りそうな恐そうな人を狙ったり、要は若手が頭を下げたり苦しんだり恥をかいたりするところを見たかったんでしょう。新入りや若手を先輩が鍛える、そういう名目で行われた悪しき風習でしたね」

 きっと、何度かは怒る人に当たったりもしているだろう。

 そしたら監視していた先輩たちは「うちの若手がすみません」と他人事として謝りに駆けて来るのだろう。

「(私は重そうな人代表かい)」

腑に落ちないが仕方ない。

 おおかた予測通りだったので理解は早いし。


「自分はそれが嫌で…ある日、『もうお終いにしませんか』と進言したんです。そうしたら、後輩の代わりに自分が標的になりまして…それで、あ、すみません、今さらですがお名前を頂いても?」

「舞岡です」

「ま、舞岡さんに声を掛けた日ですね、『あの子、行けよ』と指示されまして…それでお声掛けをした次第なんです」

「重そうでしたもんねぇ」

甘い醤油の掛かったマグロと雑穀米を、もっちゃもっちゃ噛みつつ悪態をつく。

 やっぱり罰ゲームじゃないか、善良な市民を何だと思ってるんだ。

 しかし嫌な先輩もいたもんだなぁと味噌汁に手を掛けると、

「違うんです、」

と青木さんが大きな手の平を私に掲げた。

「はい?」

「先輩たちは、そうした目的で舞岡さんを指定したんだと思うんです、でも他にも理由がありまして」

「いかにも憤慨しそうでした?」

「ち、違うんです…」

 はっきりしないなぁ、添え物のタクアンに歯を立てる。

「別に怒りませんよ、過去のことですし」

「怒られるのは当然というか、そこは舞岡さんの権利なので…」

「はぁ。他に私が選ばれた理由って何なんです?」

「……」

 青木さんは残りのカツ煮を箸で摘んで、

「いつも、署の前を通る舞岡さんを、自分が目で追ってたんです。言いましたよね、気になってたって…それを、先輩たちは面白がって舞岡さんが通る度に自分をけし掛けるようにしたんです」

と言い切り豪快に口に収めた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

生贄にされた先は、エロエロ神世界

雑煮
恋愛
村の習慣で50年に一度の生贄にされた少女。だが、少女を待っていたのはしではなくどエロい使命だった。

♡ちょっとエッチなアンソロジー〜合体編〜♡

x頭金x
恋愛
♡ちょっとHなショートショートつめ合わせ♡

【R18】散らされて

月島れいわ
恋愛
風邪を引いて寝ていた夜。 いきなり黒い袋を頭に被せられ四肢を拘束された。 抵抗する間もなく躰を開かされた鞠花。 絶望の果てに待っていたのは更なる絶望だった……

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

【R18】隣のデスクの歳下後輩君にオカズに使われているらしいので、望み通りにシてあげました。

雪村 里帆
恋愛
お陰様でHOT女性向け33位、人気ランキング146位達成※隣のデスクに座る陰キャの歳下後輩君から、ある日私の卑猥なアイコラ画像を誤送信されてしまい!?彼にオカズに使われていると知り満更でもない私は彼を部屋に招き入れてお望み通りの行為をする事に…。強気な先輩ちゃん×弱気な後輩くん。でもエッチな下着を身に付けて恥ずかしくなった私は、彼に攻められてすっかり形成逆転されてしまう。 ——全話ほぼ濡れ場で小難しいストーリーの設定などが無いのでストレス無く集中できます(はしがき・あとがきは含まない) ※完結直後のものです。

お屋敷メイドと7人の兄弟

とよ
恋愛
【露骨な性的表現を含みます】 【貞操観念はありません】 メイドさん達が昼でも夜でも7人兄弟のお世話をするお話です。

イケメンドクターは幼馴染み!夜の診察はベッドの上!?

すずなり。
恋愛
仕事帰りにケガをしてしまった私、かざね。 病院で診てくれた医師は幼馴染みだった! 「こんなにかわいくなって・・・。」 10年ぶりに再会した私たち。 お互いに気持ちを伝えられないまま・・・想いだけが加速していく。 かざね「どうしよう・・・私、ちーちゃんが好きだ。」 幼馴染『千秋』。 通称『ちーちゃん』。 きびしい一面もあるけど、優しい『ちーちゃん』。 千秋「かざねの側に・・・俺はいたい。」 自分の気持ちに気がついたあと、距離を詰めてくるのはかざねの仕事仲間の『ユウト』。 ユウト「今・・特定の『誰か』がいないなら・・・俺と付き合ってください。」 かざねは悩む。 かざね(ちーちゃんに振り向いてもらえないなら・・・・・・私がユウトさんを愛しさえすれば・・・・・忘れられる・・?) ※お話の中に出てくる病気や、治療法、職業内容などは全て架空のものです。 想像の中だけでお楽しみください。 ※お話は全て想像の世界です。現実世界とはなんの関係もありません。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 ただただ楽しんでいただけたら嬉しいです。 すずなり。

処理中です...