街を歩いていると、見知らぬマッチョに体を担ぎたいとお願いされました。

茜琉ぴーたん

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2020

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 そして秋が来て、消防署には今年も新人隊員が数名研修配属されたようだ。

 体はまだ屈強には見えず、声も小さい。

 号令のやり直しをさせられているところを何度か見た。

 彼らも来年の春には立派になっているんだろうな、そう思い見守っていた冬…会社でとある情報を耳にした。

「そこの消防署、パワハラで離職者が増えてるらしいわよ」

「え、そうなんですか…嫌ですね」

「そうなのよ。たくさん走らせたり、業務に関係ないものを買い出しに行かせたりしてたらしいわ」

「可哀想ですね…せっかく消防士になったのに、そんなことで辞めなきゃいけなくなるなんて」

 私は安直に被害者が追いやられたのだろうと思い込んでしまったのだが、専務は「可哀想?違うわよぉ」と肩をペチンと叩く。

「辞めたのはパワハラしてた方よ、加害者が辞めたの、当然でしょ。市民に声掛けて担いだりしてる話がやっと市に届いたみたいでね」

「あ、そっか…」

「しかもね、去年の新人くんいたでしょ、あの子も後輩に厳しく当たってたんですってよ。注意で済んだらしいけど、そういうの聞くとガッカリよね」


 秋に研修配属されて春に正規配属されたであろうあの新人くんが、この秋に入ったばかりの新人をイビったらしい。

 自分がされたから自分もする、という腐った伝統を踏襲してしまったようだ。

「そう、ですね…初々しかったのに…いじめる側に行っちゃったんですね」

「これまでも、数人クビになってるらしいわよ。あんたのこと持ち上げたっていう消防士、しばらく見ないんでしょ?関わってないと良いけど」

専務は大きくため息を吐いて、私の脇腹をムニと摘んで席に戻って行った。


 青木さんがパワハラ…彼はするだろうか。

 どちらかと言えばされる側ではないのかな、実際に彼は上からの指示で私を担ぎに声を掛けた訳だし。

 これは私の推測だが、状況からしてほぼ間違いないと思うのだ。

 困り顔で「担がせて下さい」と頼む青木さん、遠くでウォッチする先輩隊員。

 その構図は罰ゲームの様相だった、だから青木さんが強いられていると思った。


 けれど、もしも青木さんがハラスメントをしていた側ならどうだろう。

 もしや、おデブな私をアワアワさせたくて声を掛けたという線があるのではないか。

 つまりは署員ではなく市民イジメ、驚く私のサマを見て内心笑い転げていたとか。


「(意地悪そうには見えなかったけど…詳細を言わない時点で揶揄からかわれてるのと同じだよね)」

 おデブイジりは小さい頃から受けて来たから、多少は耐性が付いている。

 それでも多少、だ。

 身綺麗にしているし化粧もしているし、背筋もピッと正して座るよう心掛けている。

 何の罪も犯さず真面目に生きて働いているのに、歩くだけで笑われるのは悔しいし悲しい。


 そして、私が知らないだけで青木さんも後輩にイタズラを強いていたら。

 彼はあの時点で勤続5年とか言っていた。

 後輩もいただろうから慣例に倣っていても不思議は無い。

 それで私が知らない間にクビになって居なくなってしまったとかだったら。


「(もっと、性格とか知りたかった)」

 1年近く担がれて抱き上げられただけの関係、私は彼の苗字しか知らない。

 彼が今どこにいるのか、何をしているのかを知る術が無い。

「(…気になる)」

 まだ恋を知らない私は、青木さんとの一件を淡い初恋と認定することにした。

 本気で探すとか大袈裟なことはしない。

 でもモヤモヤと彼のことを考えていても何も前に進めない。

 衝撃的な初恋だった、そう区切ってやらねば想いを消化しきれない。



つづく
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