街を歩いていると、見知らぬマッチョに体を担ぎたいとお願いされました。

茜琉ぴーたん

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2019

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 その年の秋のこと。

 私が会社で仕事をしていると、出先から戻った専務が

「消防署の人に、抱っこして良いかって聞かれちゃったわ」

とこぼした。


 当然社員たちは「なんで?」と大合唱になる訳だが、私は「誰にですか?」と尋ねた。

「新人ですってよ、若かったわ」

「ムキムキでした?」

「そりゃ、それなりだったけど」

「身の丈180くらいの」

「そこまで無かったわよ…なに、知り合い?」

食い気味に質問する私に専務は不思議そうな顔をして、お土産のお団子をひとつくれる。

「いえ、ありがとうございます…」


 青木さんではなさそうだ、にしてもあの署では毎年あのようなことをしているのか。

 というか上の者がやらせているのだろう、新人イビりの一環なのだろう。

「(青木さんって、去年で入隊して5年目とか言ってたよね…新人ではない)」

 なら罰ゲームでは無かったのか、あんな屈強な男性がイビられるとも考えにくい。

 ならば青木さんの意思で私に触れ合いに来ていたのか、しかし監視みたいに見守っていた隊員たちの存在が忘れられない。

 そして心底申し訳なさそうに謝る彼はの顔…簡単にナンパと断言は出来なさそうだ。


 それからも社内で「消防士に担いで良いか聞かれた」という案件がちらほら出た。

 やらされているのは毎回若い新人くんらしく、承諾する人もいれば断る人もいたらしい。

 近隣のビルに入る会社でも案件は出ており、ここら一帯で静かな騒ぎとなりつつあった。



つづく
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