街を歩いていると、見知らぬマッチョに体を担ぎたいとお願いされました。

茜琉ぴーたん

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2018

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 それから、私が用事で出掛けた帰り道に青木さんは声を掛けてくれるようになった。

 そこで知ったのだが、彼は私より3つ年上らしい。

 職に就いて5年目だそうだ。


「せーのっ」

「ほわ」

 彼は毎度、私を持ち上げる。

 この前理由を尋ねたところ、「人命救助の訓練の一環で」と言われて訳が分からなかった。

 最初は強いられている様子だった。

 二度目は休憩中のお遊びだと言っていたはず。

 これも言わされているのか、不憫だなぁと同情する。


「降ろします…すみません、ありがとうございました」

「いいえ…あの、他の人にもこれやってるんですか?」

「え、いえ、」

「ここ、人はそこそこ通るでしょう?わざわざ重たそうな私を選ばなくても良くないですか?」

「……まぁ、その、」

「え、重たそうだから選ばれてるんですか?」

 心外だなぁ、怒りを滲ませると青木さんは首がもげそうなほどに横に振って否定を表した。

 誰にでもしているのか、隊員ひとりにつき専任者を決めて声をかけ続けているのか。

 誰でも良いのか、私でなくてはいけない理由があるのか。

 もうかれこれ6回は担がれているのだから、教えてもらっても良いのではないか。


 じいっと見上げ見つめること数秒。

「……ま、毎日…お見かけして、気になっていたので…声を掛けました……し、失礼しますっ」

そう叫んで、青木さんは俊足で署内へ戻って行った。


「待っ…」

 この道は私の通退勤のルートでもある。

 駅前通りのバス停を利用するので仕事のある日は必ず通ることになる。

 消防署員は交代制だろうが、いずれの時間でも朝の私か夕方の私が見えるのだろう。

「気になる、とは」

 さてはナンパだったのか。

 しかし、休憩中とはいえ勤務時間中に敷地内から出て声を掛けるなんて許されるのだろうか。

 好かれてるなら悪い気はしないが、釈然としない。


 もしかして、好きでもない子に告白するっていう罰ゲーム的なノリなのでは。

 言い出しっぺはもちろん、青木さんを遠巻きに眺めていた先輩隊員たちだろう。

 私は大々的なイジメを受けたことは無いが、どすこい体型なのでイジリはよく受ける。

 そこに愛があるかどうかなんて当人同士の感覚でしかないのだが、よほど親しい友人でも体型のことを笑われれば腹が立つ。


 ちなみに私のこれは、炭水化物太りである。

 ご飯が好きで学生時代に食べて太っただけ、つまりはスタンダードなおデブである。

 ここにアイデンティティは設定してないし個性でもないから、痩せられるもんなら痩せたい。

 若くて代謝の良いうちに、とは思うが面倒でサボっている。


 顔は割と可愛い方だと思う。

 悪食はしないので肌もキレイだし、父譲りのくっきりぱっちりお目々で愛嬌もあると自負している。

 幸いにも均整の取れた太り方というか、普通体型に満遍なく肉を盛り付けてひと回り大きくしたような、バランスの良いおデブだ。

 歩き方もガニ股にならないよう気を付けているし、息切れしないように余裕を持って行動するようにしている。

 暑苦しいとか臭いとか言われたくないもの、いや、チャンスがあれば痩せたいのだが。


「罰ゲームなら…ショックかな」

 消防署で「あいつに声掛けて来いよ」なんてやり取りをしてる、その説が濃厚だと思う。

 何度も何度も繰り返して、私と青木さんを笑いのタネにしている。

 最初の時点で、「体に触れるなんて!」と騒げば良かったのだろうがもう遅い。

 ハラスメント方面で攻められないこともないが、これだけ持ち上げられておいて今さら感が強い。

 そしておデブな私が言い出しても「冤罪でしょ…」とか思われるのがキツい。

 青木さんを助ける気持ちで断らず続けているが、そろそろ潮時なのだろうと思う。



つづく
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