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信頼を吹っ飛ばしたのはキミ
17(最終話)
しおりを挟むそれから、私は短い区間だがひと駅分歩いた。
やっぱり駅で鉢合わせると気まずいし、別れの挨拶をした相手にもう一度会っても対応に困る。
友達には戻れない。
そもそも大学が違うし生活圏も違うのだから、ここを乗り切れば滅多に遭遇しないはずだ。
「(痛かったろうなぁ)」
私も同様の怪我はしたことがあるので、痛みや不便さに共感はできる。
尻もちを付いて、痛みに慄いて、サークル仲間から「暴力…?」と訝しがられ、さぞかしみっともない姿を晒したことだろう。
女の私に殴り返され、動けなくなって、結果重傷で…私から訴えられる恐怖にも怯えて過ごしたかもしれない。
暴力の情報は彼の大学側にも流れたかもしれないし、友人から遠巻きにされてぼっちになっていたりするかも。
「(しかし…やり過ぎた?)」
私がやられたことに対して、彼への跳ね返りが大き過ぎた気がする。
私は頬が痛んだのとサークルを追われたくらいで、大した痛手は無かったし。
調子に乗った代償か、そもそもが暴行だから妥当なのか。
「(…スッキリ、も…そんなにしないなぁ)」
忘れかけていた記憶を掘り起こされても、気分は良くなかった。
彼が憂き目に遭っただろうと想像しても感情が動かなかった。
ただワイドショーで有名人の不祥事ニュースを耳にした時みたいに、「へぇ」という感嘆にも満たない息が心中で漏れるくらいだった。
これが情が切れたということかな、彼の事はまたしばらくは記憶の闇に葬っておきたい。
「(ざまぁ、ちょっとだけ)」
忘れようと思っては、一歩進むごとにまた思い返す。
これから先も、キッカケがある度に回想してしまうのだろう。
そしてあの日までの、イケメンな彼と交際した事実は美しき思い出として心に残っている。
「(でも…叩かれて、今日までの彼の顔は…浮かばないや)」
さっきまで会っていたのに、もうその光景は朧げだ。
脳が、彼を記憶したくないと頑張っているのかもしれない。
「(また、鍛え直そうかな)」
心身共に強い女になろう、そう思いつつ次の駅を目指すのだった。
おわり
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