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信頼を吹っ飛ばしたのはキミ

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「腫れてきましたね、ごめんなさい」

彼は備え付けの冷蔵庫を開いて、ミネラルウォーターのペットボトルを取り出した。

 これで冷やせということだろう、黙って私へ差し出す。


 この人は何が目的なんだろう。

 事態は切迫していると思うのだが、どうも追撃をしてくるようには見えず気が緩む。

 殴った後に優しくなるDVの典型的なやつなのだろうか。

 それとも少なからず後悔しているのだろうか。


 まずまずの距離を取った私は頬を冷やしつつ、

「…あんたがしたんじゃん…実際どうなの、涙目になった私は?」

と問いかけた。

「…拍子抜けですね。もっとピーピー泣くかと思ってました」

「残念でした…その方が興奮した?」

「どうなんでしょう…先輩って、流行とか追うしミーハーじゃないですか、温室育ちで自我の無さそうな量産型かと思ってて…茫然自失とかそれくらいなるかと想像してました」

「あっそう…ご期待に添えた?」

じんじんする頬に当てたペットボトルを揺らしては冷やし、やさぐれ感を隠しもせず睨みつける。

 素性を見透かされた恥ずかしさもあるけれど、だからといって力で暴くなんて許されない。

 もう好かれようなんて思わないから、愛嬌を振り撒くのももったいない。
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