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信頼を吹っ飛ばしたのはキミ
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しおりを挟む「なーんか…良かったなぁ、付き合ったのが先輩で」
「もう別れようと思ってるけど…なんで?」
「さっきの1発、だいぶんキました…芯に」
「今さら良いこと言っても無駄だからね」
「分かってますよ…すみません、…僕、本当は嘘なんです。モテてきたっての」
彼もいい加減恥ずかしくなったのか、バスローブを着直してソファーに腰掛けた。
「え、嘘なの?」
「はい、僕、大学デビュー組なんです。県北の、卒業時には同級生が半分になってるみたいな底辺高校出身で…モサい青春時代を過ごしまして」
「…イケメンなのに?」
「垢抜けるために努力したんです。姿勢から肌から髪型から…幸いにも顔の作りは今風なのでいじってません。体も鍛えて…リア充ライフを楽しもうと思ったんですよ」
「へぇ~…」
「でも滲み出る地味臭というか、陰気さっていうか…出来るだけ前髪伸ばして目線を隠したりして……その、コミュニケーションが下手で…」
「ほぉ~…」
どうせそれも嘘なんじゃないの、突然の身の上話に私も混乱する。
とりあえず服を返して欲しい。
指差して「それ、それ、」とジェスチャーすれば案外簡単に彼は渡してくれた。
「……」
あくまで視線を離さず服を着るも、彼からはやはり敵意みたいなものが感じられない。
もしかして肋骨が折れたりしたのかな、まずいなぁと冷や汗が滲む。
「あの…唐突な思い出話も良いんだけどさ、どこか悪いの?ほら、さっきのでマジ折れたとか」
「いいえ、キレイに鳩尾に入りましたから、折れてはないと思います。動けますし」
「そりゃ良かった…」
完全に服を着た私は手持ち無沙汰で、しかし彼を置いて出て行っては後味の悪い結果になりそうで帰るに帰れない。
抜け殻のような彼は、自棄になり世を儚まんばかりに呆けている。
罪の意識に苛まれて、また罰を恐れて…なんてことがあるかもしれない。
かく言う私の方はもう気持ちは落ち着いていて、着替えを済ませたと同時にファイティングポーズも解いていた。
一定の間合いさえ取っておけば、手でも脚でも咄嗟の攻撃は防げると思う。
「あのさ、いつもその…こんな風に暴力してるの?」
「いいえ、女性どころか人に手を上げたことも無いです…見て下さいよ、こんな…先輩の重さが手に残ってて…はは…」
そう言う彼は背中を丸めて、私を叩いた手を揉んではぶるぶる震えていた。
重量が揃っていれば踏みとどまれたかもしれないが、そもそも体格差もあるし筋力差もあるしで私は倒れた訳だ。
彼からすればえらく簡単に吹っ飛んだように感じただろう。
それくらい基礎的な力の差があるのだから、本来なら加減というものをしなければならないのだ。
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