わかりあえない、わかれたい・4

茜琉ぴーたん

文字の大きさ
上 下
2 / 18
信頼を吹っ飛ばしたのはキミ

1

しおりを挟む

 ばちぃんと肉が破裂するような痛々しい音が骨伝いに響いて、瞬間脳が揺れた。

 頭に引っ張られて体も床に落ち、自分の身に何が起こったのか分からず息が上がる。


「なに…?」

「ごめんね」

謝罪の言葉を吐く割に、彼は申し訳なさそうな顔なんてこれっぽっちもしていない。

 それどころか私とは別の理由で息を荒げ、その頬を上気させている。

 彼は先ほど意図的に、私の頬を打ったのだ。


 ここは男女が仲良くするためのホテルで、私たちは恋人同士だ。

 おまけに私は成人しているし、互いに大学生で自分の意思でここへ入った。

 何のためかなんて質問は野暮だ。

 好き合っている二人なんだから睦み合うのに特別な理由なんて要らない。


 私は当然彼に抱かれるつもりだったから、前もってボディーケアもしたしバスルームで最後のチェックもして清潔にしようと考えていた。

 全てを整えてベッドの横に立った時…彼は

「したいことがあるんですけど、良いですか?」

と私へ尋ねた。

 まさかたれるなんて想像もしてないから、「ちょっと激しいのかな」なんて浮かれてしまい「良いよ」と答えた。

 そして目を閉じ彼が息を吸い込む音が聞こえて…私は床に崩れたという訳だ。


「痛かったですか?」

「痛い、よ…ひどい…」

「僕のこと、嫌いになりました?」

「なりそう…いったぁ…血ぃ出てない?」

「…案外平気なんですね」


 確かに、体こそ崩れはしたが涙は出ていない。

 悲しいとか苦しいとかよりも、物理的に衝撃を受けたことへの驚きが優っているみたいだ。
 
「平気じゃないよ…腫れちゃうじゃん…」

「…ごめんなさい…」


 私は現在、大学3年生だ。

 フィリピンとのハーフで、派手な濃い顔立ちに生まれた。

 それなりに可愛いし勝ち組な気はする。

 実際小さな頃からモテたしチヤホヤされることに慣れてはいる。

 やっかみを受けて虐められたこともあるけれど、大学生ともなれば分別も付いているし平和に暮らせている。


 そんな私の彼氏は他大学の歳下の男の子だ。

 彼は中性的な顔立ちがまるでお人形さんみたいに美麗で、長いまつ毛がファサファサなびくさまは女の私が羨むくらいに悩ましい。

 身長は私より少し高いくらい、ひょろっとしていていつもダボダボな服を好んで着ている。

 少し癖っ毛なのかパーマなのかフワフワした髪の毛が軽やかで、スーツ姿でもポップな印象を受けたのを憶えている。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

わかりあえない、わかれたい・5

茜琉ぴーたん
恋愛
 好きあって付き合ったのに、縁あって巡り逢ったのに。  人格・趣味・思考…分かり合えないならサヨナラするしかない。  振ったり振られたり、恋人と別れて前に進む女性の話。  5・幼馴染みマウントを取られて、試合を降りた女性の話。 (6話+後日談2話) *シリーズ全話、独立した話です。

わかりあえない、わかれたい・8

茜琉ぴーたん
恋愛
 好きあって付き合ったのに、縁あって巡り逢ったのに。  人格・趣味・思考…分かり合えないならサヨナラするしかない。  振ったり振られたり、恋人と別れて前に進む女性の話。  8・蔑ろにされて怒り、我を通した女性の話。 (全8話) *シリーズ全話、独立した話です。

わかりあえない、わかれたい・9

茜琉ぴーたん
恋愛
 好きあって付き合ったのに、縁あって巡り逢ったのに。  人格・趣味・思考…分かり合えないならサヨナラするしかない。  振ったり振られたり、恋人と別れて前に進む女性の話。    9・切羽詰まった婚活で、クセの強い人に会ってしまった女性の話。 (8話+後日談) *シリーズ全編、独立した話です。

最愛の彼

詩織
恋愛
部長の愛人がバレてた。 彼の言うとおりに従ってるうちに私の中で気持ちが揺れ動く

わかりあえない、わかれたい・14

茜琉ぴーたん
恋愛
 好きあって付き合ったのに、縁あって巡り逢ったのに。  人格・趣味・思考…分かり合えないならサヨナラするしかない。  振ったり振られたり、恋人と別れて前に進む女性の話。    14・ゴール目前で無効を祈らされた女性の話。 (全12話) *シリーズ全編、独立した話です。

好きな人がいるならちゃんと言ってよ

しがと
恋愛
高校1年生から好きだった彼に毎日のようにアピールして、2年の夏にようやく交際を始めることができた。それなのに、彼は私ではない女性が好きみたいで……。 彼目線と彼女目線の両方で話が進みます。*全4話

教え子に手を出した塾講師の話

神谷 愛
恋愛
バイトしている塾に通い始めた女生徒の担任になった私は授業をし、その中で一線を越えてしまう話

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

処理中です...