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So I am.*(全6話)
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しおりを挟む鳥の囀りさえももう聞こえない、朝と呼ぶには遅すぎる二人の寝覚めの時。
「おはよう」のやりとりさえもいつしか消えた、もしかしたら最初の朝から交わしていなかったかもしれない。
せっかくの休日だから何か実りのあることをしたいけれど、私の隣に涅槃像の如くでんと横になった彼の瞼は一度目が合ったきり閉じられてピクリとも動かない。
下手に起こして機嫌を損ねるのも恐いので、私は先にお手洗いへと立った。
どこかに出掛けようか、それとも移動ばかりで疲れている彼を労って家で過ごそうか。
そんなことを考えつつ顔を洗ってキッチンへ向かうと冷蔵庫の前では先程の涅槃が大きく伸びをしていた。
「うわぁ」
「んー…あー、よう寝た」
「お、おはよ…」
「うん」
やっぱり挨拶は返って来ない。
これに損も得も無いけれど先に発したこちらが負けた気分になるのがなんだか悔しい。
「杉ちゃん、もう10時やし朝ごはん我慢して、どっか出掛けて昼ごはん豪華にせぇへん?」
「ん?んー…んー」
「行きたない?」
「んー…いや、ええよ、どこにしよ」
「駅前まで出よか」
「んー」
「もう、行きたないなら言うてよ」
「行くよ、着替えるわ」
超短髪の頭というかもはや頭皮を大きな手の平で撫でて「くあぁ」と欠伸。
こちらの提案に否定こそしないものの心の底からの同意ではなさそうなのがモヤモヤする。
私は着替えて基本的な化粧をして、Tシャツを替えただけで支度の済んだ彼にスマートフォンの画面を見せた。
「ほらここ、この前テレビで特集しててん。洒落てるけど安くて美味しいねんて、ここでランチしよ」
「うん」
一瞥しただけでスマートフォンを返して洗面所へと向かう彼は疲れと言うより怠そうで、しかし
「家で寝とく?やめよか」
と尋ねると
「行くって」
と水浸しの顔を鏡越しにこちらへと向ける。
「…やる気が感じられへん」
「やる気はハナからあれへんよ、基本俺は家で何でも済ませられんのよ。それをお前に合わせる言うてんねんから立派なもんやろ」
「せやけど…行きたないのを引っ張り出すんはちゃうやんか」
「ひつこいな、行きたい、行きますー」
顔をがしがし拭いてヒゲも剃らずに私の横をすり抜けてまた寝室へ、適当に選んだ靴下は私の部屋に置かせてあげているものだ。
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