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 先に何か食べようかと冷蔵庫を開けたら、仕事部屋の方でガタンと物音がした。

「…⁉︎」

 木南が何かしてるのか、緊張が高まる。

 声はしない、音もそれっきりだった。


「…なに…?」

 仕事部屋に恐る恐る近付くも、変わった様子は無い。

 しかしよくよく耳を澄ませると、小さく咳く声が聞こえた。


「…あの、木南さん?」

「ん、な、に、」

「何じゃなくて、物音がしたし、体調悪いんですか?」

「ケホ…ごめん、イス転かしちゃった…いや、喘息持ちでね、吸入器使うから大丈夫」

 よく分からないが、それって大丈夫なのか。

 身近に喘息の人間がいないから対処法も知らない。

 横になったりした方が良いのでは、救急車を呼んだ方が良いのか。

「あ、開けられますか?ここ、あの、横になった方が良いですよ、枕持って来るんで!」

「…ありがと、」

 スマートフォンを尻ポケットに差し、廊下を引き返す。

 俺が寝室へ枕を取りに走っていると、背後でカチャンと鍵の開く音がした。

 身の安全も大事だが、既に不調者が出たならそちらを優先すべきである。


 トットッと枕を抱いて仕事部屋に戻り、蒼白で跪く木南に手渡した。

「あの、救急車とか」

「…そういうんじゃない、から、発作だよ、低い段階の、ね、」

「…何か、俺に出来ること、ありますか?薬飲むならコップ取ります」

「…ちょっと、そこに、居て…」


 木南は吸入器という物を操作して、電子タバコみたいにひと吸い、すぅと吐く。

 もう一度、咥えて吸って、同じように吐いた。

 木南は最初咳の声を抑えてたから、俺に気付かせたくなかったのだろうか。

 俺が何もしなくても治るのだろうが、同じ家に居ながら放っておけなかった。

 俺は廊下から吸入をじーっと見守って、でも扉を閉める訳にもいかず佇んでいた。
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