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「…あ、やっと開けてくれた」

木南はシレッと安い笑みを浮かべて入って来る。

「…どうやってオートロックを通過したんですか?」

「あー、ヨボヨボのおばーちゃんがいてさ、その人が解錠したのと同時に入れちゃった」

「…鍵かけて、そこから出ないで下さい」

「はいはーい、ありがとね、彼ピくん」

 やっぱり非常識、入れない方が良かったか。

 でも真秋に不都合があったら一番困るし、仕事部屋の扉と鍵がキッチリ閉まるのを見届けてからリビングへと戻った。


「…フライパン、持っとこ」

小脇にフライパンを抱えて、取り込んだ洗濯物を畳む。

 ひとつ屋根の下に不可解な男が居る状況が怖い。

 いや、俺が入れなければ良かったのだろうが、表でも家の前でもあんなにギャンギャン騒がれては迷惑だ。

 俺はともかく、真秋の名前に傷が付くのは耐えられない。

 まだ真秋から連絡は無い。

 帰宅予定時間はもうすぐなはずだが、打ち合わせが長引くのは茶飯事だからおかしくもない。


「(…大人しいな)」

 モヤモヤとしながらも木南は特に動く様子も無し、そりゃ簡単に犯罪する人間なんていないか。

 構えてた自分が恥ずかしいな、なんて思いつつ畳んだ服を自室へと運んだ。

 個人の部屋には鍵は付けていない。

 だから籠城は出来ない。

 袋の鼠になるのは怖いから、入り口にポンと投げて、視野の広いリビングへとすぐ戻る。

 テレビを観る気分でもない、連絡が取りやすいようスマートフォンをずっと持っているが音沙汰ない。
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