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7月(最終章)
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しおりを挟む「当店のポイントカードはお持ちですか?」
「ハイ、」
「お預かりします………(やっぱりだ)」
ポイントカードを通してレジ画面に表示された顧客名は『小笠原桃』。
僕の目に狂いは無かったな、若返った奈々さんみたいで可愛いな、そんな想いを抱きつつも松井は顔色を変えず会計作業を進める。
わざわざ郊外の中規模店に来るぐらいだから松井を狙ったことはほぼ確定か。
しかし奈々からきちんと発表の場が設けられるまでは他人のフリをしておいた方が得策であろう。
過剰に愛想を良くすれば媚を売っていると思われるだろう、あくまでいち店員として不自然ではない仕草で、松井は作業を続けてレジの『終了』ボタンをターンと叩いた。
「ではこちら、カードとお釣り、レシートと保証書です。お納めください」
「はい、ありがとうございます」
「(ナナさんの娘さんって確か高1だったよな…大人っぽい子なんだな)」
落ち着いていてばっちり化粧を施していて、年頃の女子とはこんな感じなのかと松井はアラサーらしく世代のギャップに戸惑う。
「(そうか夏休みだから遊びに来たのかな…連れの男の子は…彼氏かな)」
商品を袋に詰めて整えて持ち手を向けてやれば、彼女はそこで初めて年相応に歯を見せて笑った。
「桃ちゃん、持つよ」
「源ちゃんありがと、では、ありがとうございました」
「いえいえ、恐れ入ります、ありがとうございました!」
洋服のショップの様に出口までお連れするなんてことはできないのでほどほどに距離を取りつつ、松井は2人の背中を見送る。
改めて奈々を間に立てて「松井旭と申します!お母さんと結婚させていただきます!」なんて宣言する日が来たりして。
そんな想像をしていると、
「……松井、さん、」
奈々そっくりの形のいい頭がくるりとこちらへ向いた。
「!……はい、」
カウンターからすぐのエスカレーターの前で桃は
「また、会いましょうね」
と言って微笑む。
「…はい、また!」
松井は気の抜けた表情で桃たちを見送り、不手際が無かったろうかとしばらく悶々と考えてはそわそわと休憩を待った。
・
『さっきナナさんの娘さんらしき子が北店に来たんだけど、何か聞いてる?名前も合ってたよ!』
『そうなの?知らなかったわ』
「…ふふっ…やるじゃない…」
本店でメッセージを受け取った奈々は、返信をしてから弁当を摘みニンマリと笑む。
夏休みを利用して兵庫に来てくれるとは聞いていたがまさか松井の方を先に見に行くとは…桃のゲリラ訪問に奈々は少し母親の顔に戻りため息をついた。
「(変な値引き交渉したり失礼なことしてないかしら…旭くんも…子供だと思って偉そうな接客してたり…しないかァ…コーナー長だものね)」
社内恋愛していることは伝えているがまさか母親よりそちらを偵察に行くとは…賢しい娘とメッセージ少しやり取りをしてから売り場へ戻るも、そのため息は止まらない。
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