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6月

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「…旭くん、昨日のことなんだけどね」

「はい、昨日?」

ひと足先に帰って準備をした奈々謹製冷やし中華をつるつるといきながら、松井は浮かない顔の恋人を見上げる。


「うん、私…子供はもう産みたくないって言ったじゃない?その…旭くんはやっぱり子供は欲しいと思ってる?」

「へ……あ、そう、ですね…んー…当たり前に生まれるものだと思ってて…すみません、ちょっと面食らったというか…」

「ううん、いいの。本能というか、エッチの目的ってそこだもの、生殖行為だもの…言ってなかった私がいけないの」

 婚活・妊活と銘打った交際ならまだしも自由恋愛においてセックスはコミニュケーション、遊びのつもりは無いが飛躍する話題に驚いた松井は箸を置いた。

「………子供はともかく……ナナさんは、その…結婚は考えてますか?」

「……」

「まだ早いとは思ってます、でもここまで深い関係になって、そのままずるずるってのも…嫌だから…いえ、まだ付き合って2ヶ月だし全然なんですけど……その、僕との将来って……考えられますか?」

「……」

「僕は、交際したからには結婚がゴールだと思ってます。家庭を作って幸せな老後を迎える、そこまで一緒に走りたいんです」


 事実上のプロポーズ、黙って聴いていた奈々は口元をほころばせ、

「ふふっ」

と…微笑みというよりは嘲笑ちょうしょうに近い声を上げる。

「ナナさん?」

「……あ、ごめんなさい………青臭くって…うん…そうよね、それが理想よね…私もそう思ってたわ、結婚したときは」

 苦々しい喋り口で思い出してるのは結婚当時のことか、反面歪ませたその表情は松井が初めて見る顔だった。


「……」

「将来を考えず簡単に体を許した結果がこうだから…よく考えるのが大切ってのも分かるわ。でもね…分かんないの、好きだの愛してるだのみんな言ってくれたけど最後まで責任取る気がある男はいなかったわ。…避妊もないがしろにするから自衛するしかなかったし…私がその程度の男としか出逢えない三下なんだったらそうなんでしょう、でもどっちにしても信用できないの。心の底から信頼なんてできない、いつか捨てられるくらいなら本気にならずに体だけ合わせてた方が楽しいもの」

ずずと酸っぱい麺をすすって胃へ落として、奈々は余ったキュウリをポリポリ齧って行儀悪くテーブルへ肘をつく。

「僕もその程度の男ですか?」

「…違うと思いたい、けど人の気持ちって変わっちゃうから…旭くんだって今は私にペコペコしてるけどもっと自信を持ったら私にだって上から目線で来るかもしれないじゃない、」

「しません、できません」

「分かんないって…もう傷付きたくないの、」

「……そうですか、わかりました」

 松井は箸を取り食事を再開し、奈々はまた「お終い」を感じながら皿を運んだ。
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