今宵も、麗しのボスとパーティーを。

茜琉ぴーたん

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4月

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「は、ダメですって、フロア長の体を見るのが目的なんですから、あれは……いいですよ、僕が代わりにやりますから、フロア長は欠席にして下さい」

 ぐらぐらと燃える憤り、下衆な目に晒せるほど彼女は簡単で安い存在ではない。

 仕事とは?メンツとは?それは自尊心と天秤にかけても重たい物なのか。

 初めて見る松井の形相に奈々は怯みつつも、この話はお終いとばかりに視線を切った。

「声が大きいわ、松井くん…いいのよ、これも仕事だって割り切れるから。私は平気だから…ね、大体、あなた余興はできないでしょ、松井くんはそういう恥かくキャラじゃな」

「僕が平気じゃないんですよ‼︎フロア長にさせるくらいなら僕がやります‼︎」

「!」

 いつも飄々として悪質なクレームにも臆さない松井の怒声、売り場の視線は一気にそちらへ集まる。


「ちょ…松井くん…」

 慌てたナナは彼の肩を押してバックヤードまで下げようとすると、後ろから嫌な声がした。

「おー、元気だな!」

「……」

 声の主石柄は怒れる松井へニタニタといやらしく笑い、

「おい松井くん、余興の件、小笠原はやるってよ。さすが大人の女だよなぁ!お前ちゃんと聞き取りしたかァ?他の女どもも協力させろよ、仲良いだろうが。予約取るだけが幹事じゃねぇんだからよ!」

と彼と女性陣諸共侮辱した。

「はぁ?」

「ちょっと…」

奈々は2人の間を取りなそうとするも、松井の青筋の立つ眉間を見て辛そうな顔をする。

「松井、お前さぁ、最近のその態度何なんだ?俺は上司だぞ?人事評価も近いってのに…分かってんのか?」

「好きにして下さい、副店長からの評価が低くても他で取り返す自信がありますから」


 人事評価、それは1年に一度行われるもので社員の自己評価と管理職による他者評価を併せたものである。

 接客・レジ・クレーム処理など業務に関わる数十の項目をA~Eの5段階でそれぞれ採点して本社に提出するのだ。

 自己評価が高くても上司がそう見ているとは限らない、この結果は後々の人事考査に反映されることになる。


「ああ?ヒラは上司の言うこと聞くもんだろうが!」

部下の不遜な態度に石柄は当然の如く怒り、挙げた手を振り下ろして売り場の回転什器じゅうきを殴りつけた。

 ガシャンと大きな音がして吊り下げの商品が数点床に落ち、近くを歩いていた子連れの客から悲鳴が上がる。

「お前、いつも生意気なんだよ!俺は上司だぞ!」

「ちょっと、副店長!やめて下さい!松井くんも、下がりなさい!」

「僕はこの人と話に来たわけじゃありません、商品に当たるとか最低ですね」

「なんだとコラァ!」

奈々は無線で男手を呼び2人を離れさせ、それでも恰幅かっぷくの良い石柄は力任せに松井へ飛びかかり腹と顔へ数発パンチを入れた。


「痛いな…これだから下衆な野蛮人は…」

「てめェ!気に入らねえんだよ、ヘラヘラしやがって、平社員のくせに、このっ…」

「役職だけがアイデンティティか、哀れだな」

「松井くん、黙りなさい!」


 売り場はしばらく騒然として、手を出した石柄は勿論だが挑発した松井も緊急措置として翌日は自宅謹慎となる。

 処分は本社の指示を受けて後日下されることとなった。
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