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3月
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しおりを挟むぐらぐらと不安定で心許ないので、奈々は体をずらして松井の頭を腿へ下ろしてやり、分厚い膝枕を提供してやる。
「贅沢ねー…童貞なのに…ふふっ」
「言わないで…下さいよ…」
「あ、まだ起きてた?ふふっ………ねェ、他の人を誘わなかったのね、なんで?」
それはちょっとした悪戯心、奈々は松井の気持ちを試した。
「……フロア長と…ふたり…が…楽しそう…だったから…」
「そう…楽しかった?」
「はい…とっても……ん…」
酔った上に寝言ならばきっと本心だろう、奈々は恩人へキチンとお礼ができたことに安堵する。
目が覚めたら彼はどう取り繕うだろうか、酔って上司の膝枕で寝たことをどう正当化するだろうか。
もし松井が照れながらも素直に喜んでくれれば少しは進歩が見られるのだが…奈々はテレビを眺めてそんなことを考えた。
松井はできる男だ。
今は平社員だが勤続年数と実績からいうとやはり役職付きになっていても不思議ない力を持っている。
物腰も柔らかいし商品知識もあるし、同僚や後輩に対しての少々のマウンティング行為を除けば、上司にも可愛がられる優秀な社員であろう。
では異性として見た時にどうか、だが、見た目と行動は往々にして男性的なのだが、奈々はどうにもこの松井青年にセクシャルな…性的な部分を見出せないのである。
引越しでクローゼットの扉を持ち上げて直してくれたり、さっと車を出して送迎してくれたり、頼りになるのは間違いなく何より実感もしているのだが、どうも「男」を感じられない。
「(不潔でもないし…不細工でもない、なんか…ノンセクシャル?中性的…でもないんだけど…おちんちん付いてないみたいな…子供っぽい…?)」
顔立ちだって男らしいのに何故だろう、まさか本当に中性なわけではあるまい。
「(いいお友達、で終わっちゃうのかな。もったいないねー…松井くん…!)」
もしこれが寝たフリで、油断したところを襲って来でもしたら拍手もの…そんな妄想ができるくらいには奈々は落ち着いていたし松井を舐めていた。
並んで料理をして、気取った会話をして…もっと素の顔を見てみたいとも思った、下世話な話で盛り上がってもいいと思えた。
彼は自分をどう思っただろうか。
「ん…ん…」
「ぁ♡」
むにゃ、と松井が顔をぐりぐりと枕へ擦り付ける、寝る時の癖なのだろうか彼は腿と座面の隙間に手を差し込んでさわさわと動かした。
同世代の男性である松井はここでやっと奈々へ「性」を感じてもらえたのだが肝心の本人は夢の中である。
奈々は様子を伺うもやはり本当に眠っているようで、彼の肩に手を置いたままドキドキと目を閉じる。
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