今宵も、麗しのボスとパーティーを。

茜琉ぴーたん

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4月

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 翌日。

 早番で出社した松井は朝礼を終えた後で石柄に声を掛けられた。


「松井くん、出欠表見た?ちょっと参加率低いよ」

「昨日の夜貼ったばかりですから、まだ増えると思いますよ」

「そう?バイトはともかく社員は全員だからね?頼むよ」

「はぁ、あ、あの余興の件ですけど、今回女性陣の参加数が少ないんですよ…予定が合わなかったりして。それで、ビンゴとかゲームとかの方向で考えることにしましたから」

まだ構想中だが、既に決定事項のように松井は言ってみる。

「はー?なんだよそれ、飲み会で女を使わないでいつ使うんだよ、参加させろよー」

「使うって…そんな言い方…」

 ここは家電量販店であって性を売る場所ではない。

 当然彼女たちは飲み会であっても「女」を振り撒く必要も義務も理屈も無いのだ。

「実際使い物にならねぇだろ、叱りゃあ泣くしよ……まぁ小笠原は出るだろ?流行りのアイドルの曲でも渡して練習させとけよ、俺からも言うからな。じゃあな、開店だ!ったく…なんだよ…その顔は…」

石柄は不機嫌そうにそう言い捨てて、正面入り口を開けにエントランスへ向かった。


「………殴りそう」

小さな涙袋がヒクヒクと脈打つ、松井はあのどうしようもないたぬき親父に腹の底から敵対心と嫌悪感を抱いている。

 そのまま浮かない顔で売り場へ入り、接客をこなしながら遅番の奈々の出勤時刻を待ちわびた。


 2時間後、奈々は出勤したのだろうが対応中でその姿は白物売り場からは望めず、松井は大口の会計を終えてから少し遅れて昼休憩に入る。

 会いたい、姿を見たい、今日のそれは恋愛感情だとも言い切れない。

 ただ石柄に何か言われる前に声をかけて「余興なんかしないで下さい」と口添えをしたい、その一心だった。


 午後のピークタイムを過ぎて客足は落ち着き、無線から聞こえる奈々の声からは元気が感じられて…顔は見えずとも安心できる、職場恋愛の肝はこういうところかと松井は遅ればせながら実感する。





 日が沈みかけた頃に松井は夕方の小休憩をとり、奈々を探しに売り場へと向かった。

 いつもなら事務所へ上がってコーヒーブレイクの時間なのに、トイレも済ませなければ都合が悪いのに、普段のルーティーンを崩してでも彼女へ会いたかったのだ。


「あ、」

 奈々は配送カウンターで石柄に話しかけられており、彼女の困惑した表情からも近くに居る陽菜子ひなこのそれからも、ろくでもない内容だというのは理解できる。

 しかし奈々は何か返答して石柄はにこやかに笑い、肩をポンと叩かれた彼女は売り場へと出てきたのでそこに駆け寄った。


「フロア長…何を話してたんですか、余興のことですか?断ったでしょうね?やらないですよね?」

「や、やるわよォ…さすがにひとりでは無理だから、ノリのいい男子でも誘って…本来の役目だったら葉山はやまくんかな、演目は考え中よ、」

 目を逸らして足早に奈々は自部門・パソコンコーナーへと戻るので、松井はひっ付いて食い下がる。
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