今宵も、麗しのボスとパーティーを。

茜琉ぴーたん

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2月

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 松井は自覚していないが、隙あらば自分語りをするタイプの男である。

 会話というより独演会、相手の話題を貰って持論を展開する、嫌われるほどでもないが女性受けはすこぶる悪い。


 昨年秋に社内の女子Aと流れで付き合うことになったのだが、その際も彼の饒舌じょうぜつさは仇となり1週間で解散となった。

 本人は知る由も無いのだが、そのAは後に

「新たな情報を聞かされた時に『初めて聞いたわ』って言いたくないんでしょうね。『知ってた』顔で喋るんですよ。こっちが話題を出しても常に知識マウント取られてる感じで…ストレス溜まりました」

と人に明かしている。


 偉ぶっているつもりは無い。

 しかし素のプライドの高さと大抵何でも出来る・覚える器用さ、周りからの期待を受けて…いつしか松井は「失敗したくない」性格になってしまっていた。

 失敗したくないから大きな冒険はしない、代案を複数用意する、万が一しくじった時に傷付かないよう保険を掛ける。

 仕事はそれでバッチリだったが、恋愛においてもそうだったので発展しなかったのである。

 口は上手いのでお喋りで仲良くなる、コミニュケーションを取るために多めに接する。

 周囲も察するほどに彼の好意は分かりやすいのに、それを相手にぶつけないために決定的な関係に発展しない。

 告白して断られるなんて自尊心が許さない、だから確定的な所まで持ち上げ高めてからなし崩しにカップルになれればそれが一番彼にとって都合が良い。

 もしくは相手からの告白を待つのもアリだ。


 夏頃に付き纏いのごとく張り付いていた女性にはその後恋人が出来ていた。

 松井はその話を聞いた時も「へぇ」というリアクションしか取れない、なんなら残念がる資格さえ無かった。

 戦ってない、挑んでないからだ。

 珍しくその先へ発展した先述のAは後々、「松井さんにはもっと…更に強い女性か、何でも聞き入れる大人しい女性がお似合いなんです」と語っている。

 彼の自分語りや知識マウントを打ち砕くか、受け入れるか…そんな女性ならあるいは松井を上手く転がせる、奈々はもちろん前者であった。


 「上司」というフィルターがあるので松井は少々かしこまる、しかし頼み事をしてくる姿勢なのでこちらが優位に立ったつもりになる。

 もてはやす訳でもなければ蔑む訳でもない、対等であって素を掴めない。

 それは彼が上手く転がされているということなのだが本人は認めない。

 彼女が年下の後輩ならもっと知識もひけらかしたかも、それが出来なかったのは松井が唯一逆らえない存在…自身の姉を重ねたからであった。

 生まれた時から自然に上位に立たれて反抗するだけ無駄、都合の良いように煽てられては下働きをさせられ、物の取り合いをすれば性別を盾に譲らされ、決して仲が悪い訳では無いが絶対的な優位、それが姉という人間である。

「(あー、姉ちゃんに似てるんだ…まぁ話しやすいけど…)」


 男性上司ばかりのムラタにおいて、松井に上から来る女性はそうそう居ない。

 松井は奈々のことを「逆らえない女性」と捉えた、それが二人の始まりであった。
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