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4月
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しおりを挟む「カンパイ、お疲れ様」
「乾杯…お疲れ様です…ふー…ひと段落ですね」
半期に1回の棚卸しが終わり、松井は奈々を招いて小さな慰労会を開いていた。
「やっぱり前の西店とは規模が違うわね…ここよりもっと大型店にもいたことあるけど、管理職の仕事量ってやっぱえげつないわ…」
「でしょうね…差異ありましたか?」
松井は奈々からのリクエストに応えて作った甘酢餡の肉団子を皿に盛り座卓へ出してやる。
前もって打ち上げはしようと言っていたので、少しずつ準備はしていたのだ。
「ん♡美味しいー!松井くん、ビール、ビールぅ♡」
「はい、はい」
「完全一致はまァ無いけどね、うん…こっちは高額商品はほとんどカード制だし…不明は少なかったかな……ととと、ありがと♡ん、ん♡」
奈々は注いでもらったビールをうっとりと眺め、団子の脂を腹へ流し込んだ。
声と喉の動きがエッチだな…と、思うだけはタダなので松井は素直な感想としてそんな事を頭に描き、自身も缶に残ったビールをグラスへ注いで奈々の対面に座る。
ちなみに缶でもグラスへ、それが酒呑みとしての両者の共通の矜恃である。
「でしょうね…パソコンやプリンターは大きくて盗めないし…USBメモリもカードでレジ引換えだし…」
「インクとか…ケーブルコネクタとか、消耗品の紛失が多かったかな。おそらく万引きね…嫌になっちゃう」
「白物は差異は少なかったですけど…雑貨コーナーの化粧品とかは毎度多いみたいですね」
データ上の在庫数と実在庫を照合する作業、差異が現れるというのは商品が何らかの理由で消失しているということである。
紛失か数え漏れか万引きか、いずれにしても差額が大きいと管理不十分として責任問題に発展したりするのだ。
「哀しいわね…監視カメラもあるっていうのに臆せず盗めるその根性、他の事に発揮すればいいのに…んー、美味しい」
「ですね…うちは特にその…数年前に管理職が在庫をちょろまかしたことがありましたから、厳しく言われるとか聞きました」
「あーー、ナントカフロア長ね、話だけは聞いたわ」
それは約6年前の冬のこと、売り上げナンバーワンを誇っていたフロア長が店の在庫と金に手を出して解雇され、店全体がパニックに陥ったという事件のことである。
在庫を業者へ売って金を得る、しかし売り上げを立てないので実在庫とデータに差異が出る、その差異を棚卸しで修正して粉飾する、という管理職ならではの手法だったそうだ。
突然起こったわけではなく数ヶ月にわたっての犯行だったようで、部下の中には知っていて黙っていた者もいるらしい。
「僕はその時白物で…直属の部下でして…気付いてはいましたけど、言えなかったです」
「うん、分かるわ…はぐらかされたらこっちの身が危ないもの」
「堂々と庇った奴は辞めていきましたし…今はクリーンだと信じてます…あ、焼けた」
オーブンの音をキッカケに松井は立ち上がり、香ばしく焼き上がったマカロニグラタンを食卓の鍋敷の上に置いた。
「あら素敵♡松井くん、お洒落料理ばっかりもう…熱そう、」
「この前のラザニアが好評でしたので…似たような物を」
皿に取り分けてやればグラタンはトロリと形を崩し、奈々は餡で濡れた唇でムフと笑う。
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