高嶺の花は摘まれたい

茜琉ぴーたん

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?月・最終章

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「…なんや…疲れた…」

兵庫へ戻る新幹線の中で、一息ついた高石は貰った饅頭をパクついてはため息を漏らす。

 甥っ子たちは騒ぐし服にビールをこぼされて風呂を借りたら何故か渉も入ってくるし、田舎だからという理由だけではなくて距離感の近い家族だった。


「ごめんなさい…近所の人まで来るとは思わなかったわ…嫌ぁね、田舎って」

「ふふっ……いや、おもろかったよ」

「そう?なら…いいけど…」

「いやしかしさぁ、ミーちゃんは育ちのええお嬢さんって言うてへんかった?いや、そうなんやろうけどイメージとちゃうかったわ」

高石は美月本人から「あたし、割と育ちは良い方なの。お嬢様的な」と聞いていたし所作からもそう実感はしていたのだが、刈田家は想像していた方向とは真逆だったのだ。

「跡取りはお兄ちゃんいるし、どうせ嫁に出すんだからって色々させられたのよ。ピアノとかバレエとかマナー教室…華道も茶道も。大して身につかなかったけど…職人さんたちは可愛がってくれたし『お嬢、お嬢』ってチヤホヤしてくれて…田舎のお姫様だったのよ」

「ふーん…まぁ育成成功よな、身持ちの固い淑女になったんやから」

「……そう、ね…」

 あの後結局は美月の父の剣幕に押されて

『はい、お嬢さんを下さい‼︎』

と宣言してご馳走をいただいた高石だったが、彼女自身はなんだかモヤモヤとして帰路についていた。

 なにしろきちんとしたプロポーズをされていない。

 交際を始めた時点で結婚も視野には入れていたしセックス中にそんな話をしたりもしたが、まさか親への挨拶が先行してしまうなんて思っていなかったのだ。

 しかして淑女ぶった美月は自分から「プロポーズしてほしい」などと言い出せず、安穏あんのんとして茶を飲む彼を横目で見ては口をつぐんだ。


「ミーちゃん、晩飯は何にしよか」

「…んー…何食べたい?」

「おっぱい」

「馬鹿じゃないの?慎んでよ」

「いいねー…ほほ…俺、次の休みに会社でトラック借りて一気に引っ越しするからさ、ミーちゃんは普通に暮らしとってええからね」

「そう…必要なものがあれば言ってね?用意しておくから」

「んー…衣類はケースで持ち込むしな、ベッドは新しいのが後日届くし…あ!ゴム、3箱くらいうとってもらおかな」

「馬鹿じゃないの……もう…」

 そうよ、まだ避妊が必要なのよ、まだ結婚してないんだもの、でもそれ以前の求婚もまだでしょう…美月も饅頭を開けてもくもくと齧り、通り過ぎて行く景色を物憂げな目で追う。
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