85 / 95
?月・最終章
79
しおりを挟む翌日。
「おかえりぃ、ミツキ……なんじゃ、彼氏か?…デカいのー、何センチ?」
荘厳な刈田家の屋敷の玄関で高石を迎えてくれたのは美月とそっくりの男性。
彼女が乗り回す愛車の先代のオーナーである兄・渉だった。
「あ、185あります、初めまして、高石いいます、」
「あー、中入れよ、おい父ちゃーん、ミツキと彼氏来とるでー!」
「おぉ、いらっしゃい、初めまして……デカいのぅ、何センチ?」
そう言うが本人もなかなか大柄な年配の男性、眉毛に男気が溢れているこの人が彼女の父・剛である。
「185あります、初めまして、高石です、」
「ほー…ええバランスじゃわ、な、おーい、ミツキと彼氏じゃ、」
「はいはい…いらっしゃい……まぁ大きい方、何センチあるん?」
代わる代わる出てくる美月の面影を宿す家族たち、高石がつい目尻を下げてしまったこのご婦人は彼女の母親・由恵。
なるほど美月は母似なのだとすぐに納得できるほどにその人は顔つきがすっぴんの彼女とそっくりで、しかし由恵は横にふっくらとしたグラマー体型だった。
「185センチです、あの、これつまらない物ですが」
「まぁ、わざわざどうも…お父さん、どうする?仏間?」
「応接間か…いや、仏間…こっちこっち、」
畳敷きの二間を開放した昔ながらの間取り、進んで行くと手前の和室には子供の玩具があり、それを散らかす少年たちが一斉に高石を見上げる。
「うわ、父ちゃんよりデカい人がおる、こわ、」
「何しに来たん?」
「なんでボウズなん?」
渉の子たちだろうか3人の少年は口々に高石へ質問を投げかけ、しかし答えようと一歩近付けば奥へと逃げて行った。
「あ、怖いか…」
「気にしないで、兄さんの子供たちよ。上から虎壱、竜牙、壮馬よ」
「…男の子らしい名前やね…」
これは腕白そうだ、客用の座布団を祖母が出すそばから踏み倒していく3人を眺めつつ高石が呟けば、
「じゃろう、嫁の腹にもうひとりおってな、何付けたろうか迷っとるんよ、ははは」
と渉は嬉しそうに笑ってみせる。
ちなみにだがその奥さんは標準語を使う人で、美月の言葉遣いには少なからず彼女の影響もあるらしい。
「そらおめでとうございます…」
「よし、高石くん、まぁ座りなさい」
父は孫3兄弟に菓子を渡して台所へと下げさせて、床の間の前にどしっと座り高石と美月を呼び寄せた。
「失礼します。…あの、今日はその…ご挨拶をと思いまして、」
「うんうん、聞いとるよ、一緒に暮らす言うて。好きにしたらええわ…」
「ありがとうございます」
「でも高石くん、ええ加減ごとはしてくれるなよ?ミツキはうちの大事なお姫さんじゃけな…性格はキツいがべっぴんじゃろ、こんな田舎にはもったいない美人じゃろ、」
彼女の自信と自己肯定感はこうして育てられたのだな、我が娘ながら謙遜もしない父の姿を高石は微笑ましく見つめ、
「ええ、お母さん似ですかね」
と遺伝子ごと賞賛すれば彼女の母も
「まぁ」
と恥ずかしそうに口を隠す。
「じゃろ…なぁ、うん…まぁ大事にしたってよ。…ミツキ、お前もうちの仕事を見てきたけぇ分かると思うけどな、体壊したら男は仕事にならん。しっかり支えてあげぇや、な、」
「もちろん」
「高石くんも、浮気はいけんぞ?」
「絶対しませんわ……なんや、結婚の挨拶みたいやなぁ」
くだけた挨拶につい気が緩んでそんなことを漏らすと、
「え、違うんか?」
と剛の額に青筋が走った。
「あ、それはもちろんなんすけど、まずは同棲の挨拶で…」
「同棲するのに結婚せんつもりか?」
「いえ、ゆくゆくはしたいですけど」
風向きが変わった、高石が少々身を引くと
「早いうちにせぇよ、子供欲しいじゃろ」
「お兄ちゃんは黙っとってよ!」
「イトコ欲しい」
「おかわりほしい!」
「ばーば、こぼしたぁ」
「あらあら、こっちでテレビ観とり、」
と刈田ファミリーが騒ぎ出す。
そして
「こんちは、親父さん!今日婿が来る言うて…お、大けぇじゃにゃあの、うちで働かんか?」
「おい、お嬢を大切にしたってぇよ、」
と本日休みのはずの従業員数名が野次馬で上がってきた。
「ほほほ…あの、」
さらには
「おう、上がるでー、さっきのタクシーはなんじゃ?ミツキちゃんが男連れて来る言うとったやつ?」
「あーミツキちゃん、またキレイになったなぁ、旦那さん見してぇな、お、デカいな、何センチ?」
と隣家の主人たちまでも立ち寄り高石を見物しに来る始末だった。
「185あります、へぇ、」
「タカちゃん相手にしなくていいわよ。おじちゃん達、純平さんがビックリしとるじゃないの。優しゅうしたげて」
「!」
いつになくきつい訛り、しかし対外モードの彼女は高石のことをきちんと下の名前にさん付けをしてくれる。
それが高石には新鮮で奥ゆかしくて…妻然としていて、彼女はやはり淑女だと感じて胸が熱くなった。
0
お気に入りに追加
65
あなたにおすすめの小説
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。
月の後宮~孤高の皇帝の寵姫~
真木
恋愛
新皇帝セルヴィウスが即位の日に閨に引きずり込んだのは、まだ十三歳の皇妹セシルだった。大好きだった兄皇帝の突然の行為に混乱し、心を閉ざすセシル。それから十年後、セシルの心が見えないまま、セルヴィウスはある決断をすることになるのだが……。
お知らせ有り※※束縛上司!~溺愛体質の上司の深すぎる愛情~
ひなの琴莉
恋愛
イケメンで完璧な上司は自分にだけなぜかとても過保護でしつこい。そんな店長に秘密を握られた。秘密をすることに交換条件として色々求められてしまう。 溺愛体質のヒーロー☓地味子。ドタバタラブコメディ。
2021/3/10
しおりを挟んでくださっている皆様へ。
こちらの作品はすごく昔に書いたのをリメイクして連載していたものです。
しかし、古い作品なので……時代背景と言うか……いろいろ突っ込みどころ満載で、修正しながら書いていたのですが、やはり難しかったです(汗)
楽しい作品に仕上げるのが厳しいと判断し、連載を中止させていただくことにしました。
申しわけありません。
新作を書いて更新していきたいと思っていますので、よろしくお願いします。
お詫びに過去に書いた原文のママ載せておきます。
修正していないのと、若かりし頃の作品のため、
甘めに見てくださいm(__)m
Home, Sweet Home
茜色
恋愛
OL生活7年目の庄野鞠子(しょうのまりこ)は、5つ年上の上司、藤堂達矢(とうどうたつや)に密かにあこがれている。あるアクシデントのせいで自宅マンションに戻れなくなった藤堂のために、鞠子は自分が暮らす一軒家に藤堂を泊まらせ、そのまま期間限定で同居することを提案する。
亡き祖母から受け継いだ古い家での共同生活は、かつて封印したはずの恋心を密かに蘇らせることになり・・・。
☆ 全19話です。オフィスラブと謳っていますが、オフィスのシーンは少なめです 。「ムーンライトノベルズ」様に投稿済のものを一部改稿しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる