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?月・最終章

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 翌日。

「おかえりぃ、ミツキ……なんじゃ、彼氏か?…デカいのー、何センチ?」

荘厳な刈田かりた家の屋敷の玄関で高石を迎えてくれたのは美月とそっくりの男性。

 彼女が乗り回す愛車の先代のオーナーである兄・わたるだった。

「あ、185あります、初めまして、高石いいます、」

「あー、中入れよ、おい父ちゃーん、ミツキと彼氏来とるでー!」

「おぉ、いらっしゃい、初めまして……デカいのぅ、何センチ?」

そう言うが本人もなかなか大柄な年配の男性、眉毛に男気が溢れているこの人が彼女の父・たけるである。

「185あります、初めまして、高石です、」

「ほー…ええバランスじゃわ、な、おーい、ミツキと彼氏じゃ、」

「はいはい…いらっしゃい……まぁ大きい方、何センチあるん?」

 代わる代わる出てくる美月の面影を宿す家族たち、高石がつい目尻を下げてしまったこのご婦人は彼女の母親・由恵よしえ

 なるほど美月は母似なのだとすぐに納得できるほどにその人は顔つきがすっぴんの彼女とそっくりで、しかし由恵は横にふっくらとしたグラマー体型だった。

「185センチです、あの、これつまらない物ですが」

「まぁ、わざわざどうも…お父さん、どうする?仏間?」

「応接間か…いや、仏間…こっちこっち、」


 畳敷きの二間を開放した昔ながらの間取り、進んで行くと手前の和室には子供の玩具があり、それを散らかす少年たちが一斉に高石を見上げる。

「うわ、父ちゃんよりデカい人がおる、こわ、」

「何しに来たん?」

「なんでボウズなん?」

渉の子たちだろうか3人の少年は口々に高石へ質問を投げかけ、しかし答えようと一歩近付けば奥へと逃げて行った。

「あ、怖いか…」

「気にしないで、兄さんの子供たちよ。上から虎壱とらいち竜牙りょうが壮馬そうまよ」

「…男の子らしい名前やね…」

 これは腕白わんぱくそうだ、客用の座布団を祖母が出すそばから踏み倒していく3人を眺めつつ高石が呟けば、

「じゃろう、嫁の腹にもうひとりおってな、何付けたろうか迷っとるんよ、ははは」

と渉は嬉しそうに笑ってみせる。

 ちなみにだがその奥さんは標準語を使う人で、美月の言葉遣いには少なからず彼女の影響もあるらしい。

「そらおめでとうございます…」

「よし、高石くん、まぁ座りなさい」

父は孫3兄弟に菓子を渡して台所へと下げさせて、床の間の前にどしっと座り高石と美月を呼び寄せた。

「失礼します。…あの、今日はその…ご挨拶をと思いまして、」

「うんうん、聞いとるよ、一緒に暮らす言うて。好きにしたらええわ…」

「ありがとうございます」

「でも高石くん、ええ加減ごとはしてくれるなよ?ミツキはうちの大事なお姫さんじゃけな…性格はキツいがべっぴんじゃろ、こんな田舎にはもったいない美人じゃろ、」

 彼女の自信と自己肯定感はこうして育てられたのだな、我が娘ながら謙遜もしない父の姿を高石は微笑ましく見つめ、

「ええ、お母さん似ですかね」

と遺伝子ごと賞賛すれば彼女の母も

「まぁ」

と恥ずかしそうに口を隠す。

「じゃろ…なぁ、うん…まぁ大事にしたってよ。…ミツキ、お前もうちの仕事を見てきたけぇ分かると思うけどな、体壊したら男は仕事にならん。しっかり支えてあげぇや、な、」

「もちろん」

「高石くんも、浮気はいけんぞ?」

「絶対しませんわ……なんや、結婚の挨拶みたいやなぁ」

 くだけた挨拶につい気が緩んでそんなことを漏らすと、

「え、違うんか?」

と剛の額に青筋が走った。

「あ、それはもちろんなんすけど、まずは同棲の挨拶で…」

「同棲するのに結婚せんつもりか?」

「いえ、ゆくゆくはしたいですけど」


 風向きが変わった、高石が少々身を引くと

「早いうちにせぇよ、子供欲しいじゃろ」

「お兄ちゃんは黙っとってよ!」

「イトコ欲しい」

「おかわりほしい!」

「ばーば、こぼしたぁ」

「あらあら、こっちでテレビ観とり、」

と刈田ファミリーが騒ぎ出す。


 そして

「こんちは、親父さん!今日婿が来る言うて…お、大けぇじゃにゃあの、うちで働かんか?」

「おい、お嬢を大切にしたってぇよ、」

と本日休みのはずの従業員数名が野次馬で上がってきた。

「ほほほ…あの、」


 さらには

「おう、上がるでー、さっきのタクシーはなんじゃ?ミツキちゃんが男連れて来る言うとったやつ?」

「あーミツキちゃん、またキレイになったなぁ、旦那さん見してぇな、お、デカいな、何センチ?」

と隣家の主人たちまでも立ち寄り高石を見物しに来る始末だった。


「185あります、へぇ、」

「タカちゃん相手にしなくていいわよ。おじちゃん達、純平じゅんぺいさんがビックリしとるじゃないの。やさしゅうしたげて」

「!」

 いつになくきついなまり、しかし対外モードの彼女は高石のことをきちんと下の名前にさん付けをしてくれる。

 それが高石には新鮮で奥ゆかしくて…妻然としていて、彼女はやはり淑女だと感じて胸が熱くなった。
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