高嶺の花は摘まれたい

茜琉ぴーたん

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2月

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 マンションへ着くと二人は体を寄せ合って部屋まで上がり、

「ミーちゃんはゆっくりしときな」

と彼女をリビングへ勧めて高石が夕食の支度へ入る。

「うん、ありがと」

その間に美月は寝室で部屋着に着替えて、食事前ではあるが知佳から貰ったクリームサンドビスケットをもぐもぐと頬張った。

「美味しい…他にも味があるのかしら…」

このビスケット2つでどれだけの鉄分が摂取できて、どれくらい貧血に作用してくれるかなんて分からない。

 しかし友の優しさ温かさを感じながらしっかりと空きっ腹へ収める。

 キッチンでは高石が大きな体でちまちまと手を動かして食材を皿へ盛り付けているところで、「張り切らせて悪いけど、そんなに食べられそうにないわ」と言い出せない美月は視線を切ってテレビをつけた。


「……よーし…あっためてる間に俺も着替えるわ。待っとってな、」

「うん、」

電子レンジからはデミグラス系の芳しい香りがファンの風に乗って、リビングの美月まで届く。

 ハンバーグかビーフシチューか、食欲はそう無かったもののいざ香りに当てられると腹の虫が「ぐぅ」と先に反応した。

「…おなか…空いたかも…」

「おまたせ、鳴った?」

「え、な、鳴ってないわよ、」

「ん、もうちょっとか」

「あ、そっちね…」

 着替えて戻った高石はスウェットの袖を捲り、腹を押さえて耳を赤くする美月の理由が分からず「はて?」と頓珍漢な表情を見せる。


 そして数秒後にレンジの電子音が鳴ると

「おーし…できたー♡タカちゃんの愛情メシやで」

とパックからハンバーグをつるんと皿へ開けた。

「わぁ…豪華ね…」

「要るだけな、ドカ食いすると胃がビックリするから」

 ハンバーグにマカロニサラダ、オムライスときんぴらごぼう、チキンナゲットと干し大根の煮物…総勢12種類のレトルト食品を雑多に皿に盛った「愛情メシ」は予想以上に腹ペコの美月の心を打つ。

「お粥も買うたけど、こっちにする?」

「それ日持ちする?オムライス分けて食べましょうよ…ね?」

「1週間は大丈夫やね」

「明日食べるわ。ん、いただきまーす♡」

 ダイニングテーブルにつき少しずつ惣菜を摘んではしっかり噛み締め、

「コンビニのオカズってよくできてるわね…美味しい」

と美月はしみじみ企業努力を讃えた。

「うん、俺はほとんどこんなんやから慣れてるけどね…ミーちゃんもさ、疲れてる時は適度にこういうの買うてさ、楽したらええねんで」

「そっか……うん……そうする…手抜きとか言わない?」

「言わへんよ。疲れてる時に料理でけへんやろ…これひとつと白飯があればOKよ…うん、美味い…俺は料理の手伝いは下手やけど、『買うて来い』言われたらコンビニでもスーパーでも…そういう手伝いはできるからな、うん……ゆっくりな、うん」

 マカロニサラダをオカズにパックの白飯を口へ運ぶ、高石の笑顔を眺めながら美月の心に少し余裕が生まれる。
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