高嶺の花は摘まれたい

茜琉ぴーたん

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2月

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「ミツキちゃん…早退する?私はあと1時間で定時だから…ここに居るなら送って行くよ。それかタクシー呼ぶ?」

「ここに居させて…ごめん…」

「うん分かった…無線…はここからじゃ飛ばないから、内線しようか。動けそう?私しようか、」

「おねがい…」

 可哀想に息も絶え絶え、どうしたものかとパソコン前に知佳が戻ると、本日分の配送を終えた高石がロビーへ入ってくるところだった。

 これから配送スタッフは翌日分の準備をするのでおおよそ1時間ほどかかるだろう。

 もし美月が望むなら高石に送迎を頼もうか…そう知佳が思いあぐねていると先に部屋の窓の前に男が立って覗く。

「おつかれ」

 そう口パクで訪ねて来たのは知佳の恋人で高石の同僚の千早ちはや諒介りょうすけで、知佳は

「待ってね」

とジェスチャーをしてから固定電話の受話器を取った。

 内線番号は管理職が常在する配送カウンター、おそらく店長が居るだろうと踏んでコールする。

「あ、すみません、商管室の宗近むねちかです。白物の刈田かりたさんが体調不良で早退するそうですのでお知らせを…はい、ちょっと…そうですね、風邪かもしれないです、はい、はい…失礼します………ふぅ、」

「ありがと…チカちゃん…」

「うん、大丈夫だよ。タイムカード先に押すね、社員証借りるよ、…………ん、OK。退勤済み、後でロッカーの荷物取りに行こうね、ゆっくりしてて」

返事はあったのだろうか聞き取れず、知佳はわざと音がするようにドアノブを大きく回して無人になったことを美月へ暗に伝え、退室した。


「……あれ、姉さんか?寝てんの?」

「うん、体調悪いの…」

知佳はロビーで待っていた千早へ簡素な答えで返し、配送センターから明日分の伝票を持って出て来た高石へ相談することにする。

「おつかれ…ん?どした?」

「高石さん、ミツキちゃんね、今そこで体調悪くて寝てるの。もう早退してるんだけど、もし本人が望めば…送って行けそうですか?」

「そりゃかまへんけど…大丈夫かいな、とりあえず片付けるわ、おい千早!アポ入れてけ、超特急や!」

高石は壁際でくったりしている恋人の背中を見遣ってから、大急ぎで取りかかった。

「ミツキちゃん、高石さんが終わり次第送るって言ってくれてるけどお願いする?」

「え、うーん…………うーん………う、ん、」

 なにをそんなに躊躇ためらうことがあるのか?知佳は余計なお節介だったかと心配したが、美月が了承したのでホッと息をついた。

「じゃあ…カバン取ってくるね。ベスト脱げる?無線も…ロッカーに入れておくね、」

「う、ん、」

 知佳は美月の制服を脱がして自身のジャンパーを掛けてやり、3階事務所へと彼女の荷物を取りに上がる。


「悪いなぁ……たすかる…」

 独りになった部屋で美月は店内BGMを聴きながらうとうとし始め、腕枕ですっかり寝入ってしまい…目を覚ましたのは1時間以上経った後だった。
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