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1月
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しおりを挟む「さーて…うちのお姫様を迎えに行きますか…」
マンションの隣の区画の端にショッピングモールがあり、スーパーマーケットの1階になかなかの規模の書店が入っている。
高石はマンションの駐車場に美月の車が無いことを確認して、徒歩でそちらへ向かった。
うっすら雨が降りそうな雰囲気もある曇天、足早に横断歩道を渡る。
「……おった、」
女性誌コーナーで付録付きのファッション誌を眺める美月を、高石は文具コーナーの陰から見つけ出し眺めた。
書店を回るときは棚通りにひと通り浚うと言っていたが、まだ角の女性誌コーナーに居るということは今日は他のコーナーから先に回ったのかもしれない。
遠目で見ても美しいとわかるそのシルエット、細い体に小さな顔…「あの娘、俺の彼女ですねん!」とアピールしまくりたい、高石はニヤニヤとほくそ笑んだ。
「……ええ女やで…あ、おい、おいおい、ミーちゃん、」
しかし、平積みの本を注視するため屈んだら、マーメイドラインのスカートの麗しい尻の曲線が丸見えになり…高石は小走りで美月の元へ向かう。
雌を、生殖機能をアピールするように突き出されたヒップライン、もちろん下着の線が浮くなんて甘いスタイリングは彼女はしないが、そんなものが無くとも、いや無い方がより官能的だった。
「ミ、ミーちゃん、お待たせ」
「タカちゃん!どうだった?スッキリした?」
「そらもう、うん、さすがアスカさんよ、」
今まさに到着したという様子で高石は合流し、美月の手荷物をキョロキョロと確認する。
「ミーちゃん、あの…上着は?」
「ん、車の中よ?屋内だけなら平気だから」
「はぁ、あー…もう寒いよ、外はもう歩かれへんくらい寒い。じきに店ん中も冷えてくる思うわ、これ羽織って、な、」
高石は自身が着ていた上着を脱いで手渡すも、彼女は怪訝そうな顔をするだけで受け取らない。
「なんで?駐車場すぐそこよ?」
「ええから…」
「そんなハードなの合わないし…何?」
大きな体躯を覆う厚手のスタジャンは重さもあるし、何より今日の美月の上品なコーディネートには不釣り合いであった。
「敢えての…ほら、ミーちゃん……その、艶かしいから…」
高石はジェスチャーで女体の凹凸を表すも、案の定美月は蔑む目で睨んで後退ってしまう。
「は?やだタカちゃん…昼間からそんなことばっかり考えて…漫画の新刊チェックしてきなさいよ、好きなんでしょ、あたし、まだ見てるから」
「わ、分かった、うん…」
気を揉みすぎたか、しかしあの目で見てもらえたのはある意味収穫…高石は上着を羽織り直してコミックコーナーへ進んだ。
「……行ったわね」
そんな高石を横目で見て、美月は女性誌から男性誌の方へ移動する。
心配してくれるのは有り難いが言い方というものがあるし、張り切ったお呼ばれコーデをボディコン扱いされたことも不服であった。
「(なに?艶かしいって…そんなに強調してないわよ……!お尻が大きくなったわけでもないのに…むぅ)」
体型管理も計測も常に怠らない美月の自信は揺らがない。
特に先日は同僚の知佳に付き合い下着を新調したばかり、営業トークとはいえフィッターからお褒めの言葉を貰ったばかりであった。
「(…あたしが普通にしてるだけでも…タカちゃん、興奮してくれてるってことかしら……やだ…恥ずかしい…)」
家に帰ったら少し甘えさせてあげようかな、そんなことを考えて唇を甘噛みし、美月は男性誌コーナーへと移動する。
「(わ、『冷蔵庫・洗濯機新商品徹底比較!』かぁ…みんな好きそうね…『おひとりさま家電、実際に使ってみた』…このメーカーは取り扱い無いわ…)」
家電・モバイルの情報誌に掲載された商品は一時的によく売れる。
問い合わせも格段に増えて売り出し商品となる。
トレンド家電の情報もある程度入れておきたい、電子書籍でも良いのだが今月号には付録が付いており美月はどうしようかと少し考え込んだ。
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