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11月

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「うん…ふふ♡あ、ねぇ…何か食べる?出店もあるわ」

「せやな、コロッケ…タコ天…」

 目を細めてノボリを読む高石の影から身を乗り出し、美月は1つの看板に目を留める。

「あ、明石焼き!軽食にいいじゃない、食べたい♡」

「え」

「なに?嫌い?」

「いや、」


 おそらくこれから地元へ戻って食べることになる、高石はそろそろ潮時かと美月へ話を切り出した。

「あんな、ミーちゃん…実は、千早の方にトラブルがあってな、まだ地元に居るらしいのよ」

「ハ?」

「しやから、俺らも次のインターで引き返して、地元戻って合流しよう思うねん」

「ハァ?淡路島は?」

「そら今回は中止…ちょ、ミーちゃん、」

美月は恐い顔で立ち上がり、高石の額へ前髪を擦り付けて凄んだ。

「タカちゃん、じゃあ、チカちゃんは2人っきりで向こうに居るってこと?」

「せやね…とりあえず俺、運転するから…GPS見たらええんちゃうかな…」


 高石はうまくすり抜けて美月のバッグを抱え、コーヒーをササと奪って駐車場へと走る。

「ちょっと、タカちゃん!」

 助手席が整うのを待って高石は車を発進させた。


 助手席でGPSを確認した美月は高石の想像通りひどく激昂し、素早く千早へ電話をかけ始める。

「ちょっと、どこ行ってんの⁉︎そこ、チカちゃんの家でしょ‼︎いきなり部屋に上がれなんて言ってないわよ!淡路島はどうしたのよ⁉︎」

隣で聴いていても耳がビリビリと痛くなる程の声量と迫力で、美月は電話の向こうの千早をなじった。

 しかしビデオ通話に切り替わって手を振る知佳の姿を見るとトーンダウンし、その後はなんとなく千早が上手くいなしたのだろう、

「先に始めてて、んで……写真でも撮って送って来なさいよ…まだ向かうのに時間かかるから、じゃあね、」

と、電話を切った。


「はぁ…チカちゃん…男の人をホイホイ家に上げるなんて…千早さん…変な事しないわよね?」

「シてもええんちゃう?家に上げたらそうい…」

運転中で目線は外せないが、高石は左側からピリつく空気を感じ取って途中で黙る。

「ここで引き返すね」


 高石はインターチェンジで一旦下り、一般道を介して再び下りの高速道路へ乗った。

「…あたしが思ってるより、簡単なことなのかしら…部屋に上げたり、そういう関係になるのって」

先ほど見たばかりの景色を眺めながら、数分ぶりに美月が口を開く。

「んー……ミーちゃん、チカちゃんを信じたり。俺らも来るから、家にしたんやろ?終始2人きりやったら……さすがに無いわ」

「そうよね、うん…」

 もしそうだとしても知佳のことを軽蔑するわけではない。

 ただ美月は自分の身持の固さが世間一般からズレ過ぎなのかと危惧しただけなのだ。

「ミーちゃんはミーちゃんの、チカちゃんはチカちゃんの価値観があるだけよ、気にせんとき」

「うん…」

「ミーちゃんかて、あんだけ合コンして彼氏作っててんから、あんまり人のこと言われへんよ?」

「まぁね!そうよね、あたしが人の事をとやかく……言えないわ……黒歴史ね…」


 美月はつい最近までのその歴史を悔やみ、こんなにも近くに有って気付かなかった幸せを有り難く噛み締める。

「タカちゃん、ありがとうね。もっと早く…タカちゃんとの幸せに気付けば良かった」

「今更よ、俺はまだまだ待てるわ、あと1年は余裕よ。ははは」

高石はまたひとつ嘘をつき、車を西へ西へ走らせた。
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