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11月

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「ここ、いい?」

「へぇ、どうぞ」

食事も進んで高石がドリンクを追加して席へ戻った時、飛鳥がひとり彼の隣へ着いた。

 妖艶、そしてどこか雄々しく挑戦的…脚を組んで高圧的に見つめてくる飛鳥の視線に耐えきれず、高石は口を開く。

「あの、アスカさん、なに」

「『ネイキッド・ヴァンビ』」

「!」

「って、知ってる?」

飛鳥がにっこりとつけまつげを伏せて次に目を開けた時、そこにはアワアワと狼狽うろたえる高石の姿が映っていた。

 それはかつて飛鳥がヘルプで勤めていたニューハーフSMクラブの店名、それを久々に耳にして驚いた…高石もかつてそこのユーザーだったのである。

「ちょ、なんで…」

「常連だったろ?大きくて坊主で…こんなに大きいのにMなんだ、って印象深かったから。顔立ちも覚えやすいし…おい?主人を忘れたか?」

掌で目元を隠して歯を見せニィと微笑めば、高石は即座に姿勢を正して大きな拳を膝へ置いた。


「!………キョウ、様?」

「正解♡よく覚えてたね、偉い♡」

飛鳥が仰け反らせた顔で蔑みの目を向ければ、高石は「うひゃあ♡」と古傷を懐かしむように胸を押さえた。

「覚えてますよ、俺の最初で最後の女王様やもん、うわぁ、1年半ぶりや、お久しぶりです、うわぁ♡」

「仮面越しだったから素顔じゃ分かんねぇよな、はは♡……にしてもドMのお前が女の子連れて……さっきの綺麗な子、ミツキちゃん?あの子って相当なSなの?」

「ちゃいますよ、ノーマルもどノーマル、なんせ俺らまだセックスもしてへんのですから…」

小声で、身を寄せ合って2人はいかがわしい話と思い出を語る。

「そう、お前…普通の恋なんか出来ないって思ったけど…意外と順応するんだな。まぁボクも…普通に所帯持っちゃったけどさ」

「あ、ご結婚されたんですね、おめでとうございます」

「ありがと♡あーそう……女の子にはグイグイ行くんだ?偉くなったもんだね」

飛鳥はヒールのかかとで高石のスニーカーの甲をぐりぐりと踏みつけた。

「あ♡…キツそうな美人でしょ?せやのに男性に慣れてへんから…可愛いんすよ。あの店通ってた時からアプローチはしてたんすけど…ミーちゃんはSやのうて、気質が女王なんすわ。たまに睨んで貰うてますよ、お礼も言うてますし。伸び代がありますよ、これからメキメキSにしていくことも可能っすよ」

「SをM堕ちさせるのは分かるけどさ、Sを育てるって斬新だな」

「へへ…」

眉間を額へ吊り上げ、高石はヒールに杭打ちされた足の不自由さに気持ち良さそうな息を吐く。

「変わらねぇな♡ふーん…ケツは?他の子に開通させてもらった?」

「そこまで開発せぇへんまま辞めてしもたやないですか…あの店は結局キョウ様にしかお世話にならへんかった」

 高石が飛鳥に施して貰ったのは拘束と言葉責め、スパンキングに蝋燭ろうそくに…前後の手淫、あくまで趣味の域を越えないように、更なる深みにハマらないようにセーブしていたのだ。

「お前、滅多に来なかったじゃんか、調教も進まねぇよ。ふーん、他の店は?」

「いやぁ、M性感だけっすよ、そっちもニューハーフで。あー……うん、いや、そうでもあれへんけど」

 マッサージと3回の本番のみ、これは美月にも公表している事実である。

「へぇ…あ、ボクさ、奥さん…ジュンちゃん…所長な、にはクラブのことはぼかして伝えてあるんだよ。本当はまぁ…お前みたいな常連も抱えてたけど…んなこと言うとさすがに引いちゃうだろ?内緒な」

「言いませんて…俺の身も危ういっすわ、あ、所長とご結婚を…へぇ…ほほ」

「こんな卑猥な思い出を笑って話せるんだから、お前ほんとMだなァ♡」

「てへへ…ぁ♡……あ、アスカさんは?その後は」

「本業…パソコン教室と自営業…コンピューター系の。あと保育関連」

「へぇ、えらい多岐に渡って…ほなもう夜の街は?」

「無いね…ん、お金払うならシてやってもいいよ?無料でスると浮気になっちゃうからね」

「いや、魅力的やけど…あ♡キョウ様、足に穴空いてまう♡痛い♡」


 女装子と坊主、異色の組み合わせの2人は和やかに近況報告を交わしていった。
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