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9月・高嶺の花は摘まれたい

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「……」

 もう辛抱ならない、高石はゆらりと立ち上がり、ソファーの背もたれに両手をついて巨人の様に美月を見下ろす。

「……あー、お姉さん、さっきから誘ってるやんな?誘い受けは卑怯やで。なんかして欲しいなら自分で言いや」 

「何言ってんの?どこで寝ようとあたしの勝手じゃない」

膝を抱え込み、振り向きもせず美月が反論する。

 ショートパンツでそんなに脚を曲げればさらに未知の部分が見えてしまう、ダウンライトの電球色が彼女の肌に妖しく色を付けた。

「ん?俺の理性を試してんね。何なん?今日は。男に振られたからって俺ではなぐさみにならんで。自分、そんな安い女とちゃうやろ。何やねん…」

 酔ったからといって自分を連れ込んだり、横で着替えたり、顔を触ったり、同室で寝ようとしたり。

 高石を信用しているのか、葛藤する姿を見て楽しんでいるのか、それとも。

 声を投げても彼女は反応を返さない。

「…ほないっぺんしか聞かんで。俺に何されてもええんやな。途中で止めろ言われても無理やで、」

聞く、と言いながら彼女の応答を待たずに高石は強行する。

 夏布団を剥がし寝転ぶ彼女の背中と膝の下に腕を入れ、抱えるように持ち上げた。


「よっこいしょぉ!」

「……っ!」

 電子レンジは16キロ、縦型洗濯機は25キロ、普段持ち上げる家電よりも当然彼女は重たい、重たいがしかし余裕で抱ける。

 美月は運搬されながら手は赤子の様に胸の前でぎゅっと握り、嫌がりも暴れもしない。


 高石は照明も点けないまま美月を寝室のベッドへ投げる様に降ろし、覆い被さった。

「っきゃ……」

 さっきまでファッションショーをしていた部屋とは思えない雰囲気、壁のLEDデジタル時計が思いの外明るく、目が慣れてくると青い光だけで彼女の表情が見えた。

 美月は小さい悲鳴を上げた後は高石を不安そうに睨んでいて、男はその両脚を持ち上げ膝が胸に付くまでぎゅうと肩で押さえつける。

 セックスの体位で言うところの屈曲位、圧迫された彼女は眉毛が八の字に下がり、泣きそうな切ない顔になっていた。

 そして気丈な女が自分の下で組み伏せられている、こんな状況に男はMだというのにゾクゾクするほど奮い立っていた。


 しかし手を出したら付かず離れずの楽しい関係は終わってしまう、高石は逆光だからと情けない顔で言葉を落とす。

「なぁ、ミーちゃん、もっと自分を大切にせな。モテるんはしょうがないけどな、こんな警戒せんと無防備で。俺だって男やで、何べんも言うてるやん、ミーちゃんの事好きやって。あんまり無茶してると、アンタの処女、俺が貰てまうよ」

「!」


 言いたいことを伝えた高石は体を起こして胡座あぐらをかき、ポリポリと頭を掻いた。

 そして前のめりになり「ふーっ」と呼吸を整えてから、ゆっくり脚を下ろしてやり美月に声を掛ける。

「怖かったやろうけど謝らんよ。もうこのまま寝ぇや。掛け布団、持ってくるから」

 高石は寝室を出てリビングのソファーから夏布団を回収し、再度戻ると彼女はベッドの真ん中にちょこんと座っていた。
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