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9月・高嶺の花は摘まれたい
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しおりを挟む「そのシャツ、懐かしいでしょ」
リビングに戻ると、美月が出迎えてくれる。
「夏フェスの時のやつな、懐いわ」
出会ったその年の夏、二人で近場の野音フェスへ行きバンドTシャツを買ってその場で着替え、脱いだシャツを美月のバッグに入れてもらいそのままになっていたのだ。
「これは、海に行った時のやつやな」
「そー。タカちゃんは乾いた海パンで帰ったの。大概あたしのカバンに入れたまんま」
「パンツは?」
「それは、買い置き。いつ何があっても大丈夫なように」
「(周到なことやな…)」
男の影を感じて脱いでしまおうかという気分になるも、
「はじめて買い置きが役に立った」
その声で高石は彼女の方に向き直り、何気ないフリをして尋ねる。
「……そーなん?」
「そーよ、タカちゃんが初めてよ♡」
まだ彼女は酔っている、その言葉に含みを感じて高石は勝手に色めく。
「ねぇ、こっち、」
リビングから出る扉の前で彼女が手招きをするので付いて行くと、先程の風呂場とは逆の方、扉の開いた洋室が見える。
中から彼女が
「服、見てみてよ。ギャルっぽいの」
と高石を呼んだ。
「……寝室やん……」
男は文字通り頭を抱える。
この女、堅実な付き合いがどーのと言いながら、警戒心のかけらもない。
彼女の行く末が心配であると同時に、男として見られていない自分の扱いに腹が立つ。
「ミーちゃん、俺は寝室には入れへんよ」
「なんで?」
「…俺も男や。入るわけにはいかん」
「……男なのは知ってるけど。じゃあそこで見とって?」
彼女は高石の決死のセリフも意に介さず、クローゼットを開けて服を漁る。
「ねぇ、これとかギャルっぽくない?」
「見えへん」
「だから、こっち入ってよ」
「………はい(俺は意思が弱い。)」
白とピンクを基調とした、家具屋のモデルルームのようなお洒落な寝室は普段の美月の香りがした。
「この辺は夏服で、背中とか出したらギャルっぽい?」
派手目の洋服を手にした美月が尋ねるので、聞かれるなら、と高石は洋服をペラペラめくりながら自論を語る。
「そんな単純なもんちゃうと思うけどね。なるべく露出を抑えるんが逆にギャルちゃうかな。肩を出すなら、脚は足首まで隠さなあかんよ。脚を出すなら首まで隠さなあかんしね。大体背中出したら、下着とか前だけのシリコンブラ付けないかんやろ、それはちょっと無防備すぎて呑み会みたいな場でミーちゃんにさせられへんよ。まず、白ギャルなのか黒ギャルなのか、その辺の設定を…ちょいとミーちゃん聞いてる?」
「うん。聞いとるよ。ね、メイクはこんな感じ」
高説の間に美月はアイラインを太くし、つけまつげを盛って、「即席ギャルメイク」を施していた。
自前のまつ毛でも事足りるのに、そのケバケバしさに高石は口元を押さえ感嘆する。
「ミーちゃん、ただでさえ濃い顔やのに…こないなって…写真撮ってええか?」
「ええよぉ♡」
高石はスマホで数枚撮り、本人に見せてやった。
「ぉー、ええ感じじゃん。ほら、このスカートとか、制服みたいじゃない?」
「ほんまやな」
「タカちゃん、ギャルJK好きじゃろ?」
「嫌いではないよ」
「やったげるから、向こう向いてて」
背中の向こうからはガサゴソと着替える音、高石は目を閉じて意識を集中し素数を113まで数えた。
「いいよ、見て」
「おぉー!ギャルやね!いいよいいよー」
10年前の彼女はどんな感じだったのか、当時の姿を思い浮かべながら高石は美月を褒めちぎる。
「ね!」
その後もキャッキャと4パターンほどギャル衣装合わせをし、0時を回ったしもういいだろうとお開きにした。
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