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エピローグ・高石の思い出語り

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 少し前のこと。

「ごめん、誰か不良返品の回収に出られないかな、***町」

配送スタッフもまばらになった1階の配送工事センター前、生活家電担当のフロア長が売り場から降りてきてそんな事を口走る。

 配送するような大型の製品なら業務として行けるがそれも翌日以降に予定を組めばこその話。

 今からと言われて陽が沈んだ今からスッと行けるものではないのだ。

 なんせ配送スタッフはムラタ本社と提携している言わば協力会社、世間的には「下請け」と表現されがちだが業者無くして小売店は営業できない。

 だからうちでの立場はそう悪くはない。

「いや、業者さんも時間外になるから。報酬外のことさせられないよ」

センター長は管理上させられないとバッサリ切り捨てた。


 しかもよくよく聞いてみると不良品とは小さなドライヤーひとつ、小型製品は客が店に持って来るか店からスタッフを派遣して交換して来るのがレギュラーな対応である。

 それができないのは客足が多くて人手を割けないという店側の勝手な理由だ。

 ダメ元で頼んできたフロア長も覚悟していたのであろうか自ら出撃すべくネクタイを気持ち緩めはじめた。

 さすが場数を踏んでいるのだろう管理職は違う、しかしそのかたわらに立つ制服の女性スタッフは浮かない顔をしていた。

 連れ立って来るということは彼女が販売した物なのだろう。

 不良品はメーカーの責任だけではなく販売側の責任でもあるのだ。


 さてその彼女は年の頃20代も半ばくらいか、浮かない顔と言ったがよくよく見れば不遜な…「なんでこんなことに時間を割かねばならないの」とでも言いたげな不服そうな表情だった。

 自前だろうか豊かなまつ毛に大きな目、ほっそりとしているが痩せすぎてはない体。

 結んでもベルトまで届きそうな髪、そして女性にしては高いのだろうか上背もありそうである。

 はっきり言って美人、それも迫力があって強そうな…男に屈しないタイプの美人。


「俺、行きますよ。帰る途中やし…新しいの渡して、不良品貰って帰りゃええんすよね」

俺こと高石たかいし純平じゅんぺいは開いていた配送センターの窓から身を乗り出して会話に割り込んだ。

「いいの?何かあってもこっちから労災降りないよ?」

「ありがとう、いいの?」

 管理職2人は口々に俺に声をかけるが、何よりの当事者である彼女は少し眉尻を下げただけで黙ってこちらを見ている。

「どうせ通り道なんすもん、ええっすよ」

我ながら気前よくお使いを買って出たわけだが、何を隠そうこれは打算であった。

 恩を売ってあわよくばお近づきになってという下心、俺は彼女から交換用のドライヤーの箱を受け取ってフロア長から詳細な住所を貰い、センター長に挨拶をして裏口扉へと向かう。

「……(見送りにもぇへん…いいねぇ)」

おそらくすぐに客が溢れる売り場へと戻ったのだろう、俺の車はフロア長に見送られて県道へと出た。
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