高嶺の花は摘まれたい

茜琉ぴーたん

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?月・最終章

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 各駅停車の新幹線は1時間弱で一旦乗り換え、大阪方面行きの便までは10分程度…二人はホームのベンチへ腰掛けて待つことにする。

「これに乗れば20分で皇路オウジね、速いわ」

「せやな…うん…」

「そんなに疲れちゃった?ごめんなさいね」

「そらぁ…まぁね、緊張がね、いろいろ…勢いで言うてもうたけど…ふー……ミーちゃん、」

「うん?」

 あとは帰って夕飯だけなのに浮かない声をしている高石、美月がいたわろうかと顔を向けたその時、

「結婚、しよか」

と分厚い唇がそう発した。

「エ、………なんで今言うの?」

美月はポカンとして、人の往来もあり落ち着かず深く問い詰めることもできない。

「あれ、挨拶までしてもうたのに…あかん?」

「違う、プロポーズでしょ?もっとロマンチックな、夜景とか見える…」

だってまだ昼、夕陽と呼ぶには高い位置の太陽が照っている。

「夜景は帰ってから見よ、大橋がええかなぁー」

「ゆ、指輪とか…」

「婚約指輪?要るかな…まぁ結納までにはね、結婚指輪は二人で選ぼ、俺はセンス悪いから」

「…花束とか…」

物に拘るわけではないが記念品的な、想いを込めた物が無いならせめて言葉とシチュエーションをあつらえるべきでは?美月の眉間が次第に険しくなってきた。

「花より団子、枯れる花より新鮮なおっぱいよ」

「馬鹿じゃないの!」

「ありがとうございますー」

 いつもの調子で高石が頭をペコと下げると美月は呆れて息をつき、

「…もう…タカちゃん、とりあえず返事は保留ね。きちんとしてくれなきゃイヤ。記念になる日に、思い出になるプロポーズをしてくれなきゃ嫌よ。…初エッチがあんなだったんだから…プロポーズくらいきっちりしてよね」

とその額をペチと叩き立ち上がる。

「うーん…うん?ほな毎日言うわ。断られんのも楽しいから」

「何言ってんの?本当なら一生に一度でいいのに…もう、」

「しやけどさぁ、うちとこの社長なんか、セックス中にプロポーズしたらしいで?しかも会社で昼休憩に。そんなんに比べたらまだええやろ」

「……うーん」

喧騒けんそうの中とはいえ昼間からなんという話題だろうか…美月は周りを見渡すもこちらを注視している者はいなかった。


「(ロマンチックって…なんだっけ)」

 今晩もきっとセックスをするのにそんなことを聞かされると期待してしまう。

 甘く激しく責め立てられて「YES」を引き出される、それはそれで素敵かもしれない。

 自分からそれを引き出すために高石は夜毎奮うだろう、断られても了承しても笑って喜ぶだろう。

 想像するだけではらがきゅうっと締め付けられ…美月は着車メロディをバックに高石へ振り返った。


「タカちゃん、……ならあたしも、でいいわ」

「ん?それって?」


 風を巻き起こしてホームに入ってくる新幹線、轟音に紛れ美月は座る高石の耳元に唇を付けて

「ご奉仕しながら、求婚しなさい。あたしに『YES』と言わせなさいよ」

と囁いて、去り際に耳たぶを舐めキャリーバッグに手を掛ける。

 命令のような依頼、求めさせるし頼ませるし認めさせる、主従のねじれたその要求に高石は頬を紅くして、

「是非に」

と彼女の腰を抱いて並んで立った。

「ふふ」

「ほほ」


 二人は2駅だけだからと自由席車両のデッキで立って景色を眺め、時折キスをしてハグをして、帰宅後のことを考えて心を燃やす。

「痴漢みたいで興奮するなぁ」

「馬鹿じゃないの」

「ありがとうございます♡」
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