高嶺の花は摘まれたい

茜琉ぴーたん

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1月

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 無修正動画もゴロゴロと転がっているこの時代、エロ禁止の動画投稿サイトでさえ際どいセクレポや玩具の使用感の報告が平気で配信されていたりする。

 妄想を拗らせたようなファンタジーな内容の物もあるがそれを鵜呑みにしてしまうほど馬鹿ではあるまい、飛鳥は妻へしている舌技を披露するわけにもいかず高石を突き放した。

 その後もちょっとした猥談をしながら揉んでもらい、手は肩甲骨から肩へ、飛鳥はいよいよ力を入れて押していく。

 前回揉んでやった時より心なしか筋肉量が増えて引き締まっている感触があった。


「…お前、幸せ者だな。彼女の初めてを貰えるって」

 パートナーの一生涯に一度きりの体験、それをいただけるのはやはり特別なことだと飛鳥は思うのだ。

 どんなに抱いたってそれは元彼の体だけが知っている感触、その時彼女はどんな顔でどんな声で男を受け入れたのか?本当は知りたいが言い出せはしなかった。

「そうですかね、ほほほ」

「いい思い出にしてあげなよ、どうせならさ」

 美化し過ぎかもしれないがさっさと捨ててしまいたい男の童貞とは捉え方がきっと違うのだろう。

 なんせ内臓に近い体内へ他人を侵入させる、しかも痛みと出血を伴うなど普通に考えて恐怖である。

 もっとも高石は過去に飛鳥の手袋越しの指までは侵入を許しているのでそのハードルは女性に対しても意外と低いのかもしれないが。


「…ちなみに、アスカさんはうちのミーちゃんのこと、どう思います?」

「は?美人とは思うよ…うちの奥さんと同じくらい」

唐突に趣向の変わった質問に、飛鳥は素直な意見を述べる。

 白物の美月と法人事業部の潤、長身の2人はかつて本店における二大美女であった。

 気も合うし、他の女子スタッフと共に合コンに勤しんだり岩盤浴へ行ったりもしていたことは飛鳥も知っている。

「もし仮にミーちゃんと仲良くなってたら、ミーちゃんと付き合うてたと思います?」

「その仮定に何の意味があるのか分かんねぇけど…たぶん無いよ。ボク、女の子より上に立ちたい気質だから…ミツキちゃんを屈服させるのも楽しいだろうけど…趣味じゃない、好みじゃないって言うのかな…たぶん無いよ…てか各方面に失礼だろ」

手刀をトトトと首筋から肩へ打ち込んで高石を嗜めた。

「すんません、ちょいと気になってね…」

「……お前は?うちの奥さんと先に仲良くなってたら、付き合ってたと思うか?」

不毛な質問返し、飛鳥は高石の答えなど分かりきっているが静寂を埋めるために聞いてみる。

「んー………その世界線にミーちゃんがおらへんなら…告白してるかもしれんすね…べっぴんやし…まぁでも…好みとはちょいちゃいますね、ほほほ」

 美しく人が良く、だからといってその先はどうなのか?

 好きになればその人がタイプだろうが、美月こそが最強、そこは揺るがない。

 ちなみに高石と飛鳥、両者は意識こそしていないが、他者から「美人」と称されるパートナーのことを「可愛い」と褒めそやす、その点においては共通の価値観を持っている。

「だろ?変な質問すんじゃねぇよ…」

上から顎を掴んで持ち上げえび反りの姿勢でグッと伸ばす、ゆっくり降ろしてペチンと頭を叩き、飛鳥は床へと足を付けた。

「おら、しまいだ、帰れよ…」

「はー、スッキリした…ありがとうございます」

「次からはマジで金取るよ…今回は出産祝いでチャラな。…お前背中広いから仕事量多いんだよ」

「ほほほ…さーせん、」

高石はコキコキと首を鳴らして頭を下げ、帰り支度をし始めると寝室から赤子の泣き声がし始める。

「あ、もう起きたわ。早いな……じゃあな、見送らないから勝手に出て行けよ、」

「はーい、失礼します…」


 はいはい、と声を掛けながら飛鳥はリビングから寝室へと向かって行って、扉が開けば弱々しく甘えた声がオムツの不快感か空腹を訴えていた。

 高石は清里一家の声を微笑ましく背中に受けながらマンションを後にする。
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