高嶺の花は摘まれたい

茜琉ぴーたん

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2月

62

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「お姉さん、今度飯でも行かへん?」

「なんで?」

「なんでて、デートやん。アカン?」

「ていうか誰?」

 高石たかいしとの初体験を済ませた6日後、月は変わって2月初旬。

 伝票確認で1階の商品管理室を訪れた美月みつきは、直前のロビーで配送員の男性に声を掛けられいつになく素っ気なく応答した。

 男性は呆気にとられ引き下がり、美月は不機嫌を隠さずにしかめっ面のまま商品管理室へと入って行く。


「しつれーい…チカちゃん…ちょっと休ませて、」

「うん、……そこ座って、寒かったらヒーターも…」

「ありがと…はぁ…ダルい…」

売り場でも私生活でも滅多に姿勢を崩さない美月がだらりと背中を丸めて机に伏せる。

 同僚であり同郷の友人でもある知佳ちかは足元用ヒーターを彼女の方へ向けて温風を送ってやった。

「体調悪い?」

「うん…なんか…生理でこんなに痛いの初めてで…うん…眠いし…うん…」

 珍しく化粧ノリの悪い肌、失敗したのか崩れたのかアイラインがヨレて目の下に滲んでしまっている。

「生理痛か…薬は?飲んで、持ち歩いてるから……ほら、」

生理痛とは長い付き合いの知佳はビギナーへ市販の鎮痛剤を分けてやり、マイ水筒の麦茶を差し出して飲ませてやった。

「ごめん………ありがと………」

「休んで、…ご飯食べてる?」

「昨日の夜から…生理が始まってからずっとこんなで…食欲なくて………最近…色々…なんかぐちゃぐちゃでさぁ…変なの…」

「うん、色々、ね、」


 ひとつには同僚かつ親友・ゆいのいきなりの転勤、ひとつは大切に乗っていた愛車の故障、さらに新しい上司との不和、突如起こり始めたPMS(月経前症候群)と思われるイライラと肌荒れ。

 そして複合的に打ちのめされた結果の体調不良と売り上げ不振。

 毎月の販売実績が波いる猛者もさを抑えての上位に君臨する女王・美月だが、先月末からどうにも調子を崩しているのだ。

 買い渋り・交渉負け・キャンセル・在庫切れでお流れ…それは美月本人のどうこうと言うよりは運や客側の事情によるものなのだが、ここまでギュッと凝縮されて多発されると自信家の彼女においても不安になってしまう。

 彼女は正社員ではなく嘱託での雇用で、売上額に応じて月給が変動する歩合給である。

 なので給料もそうだが契約更新にも大きく関わり…つまりは売れないと職を失う可能性もあるのだ。

 もちろん更新は毎月ではなく半年に一度なのでこれから取り返せば良いのだが、立て続けに起こるショッキングな出来事に頭も身体も混乱をきたしている。

 加えてホルモンバランスの影響か悲観的になってしまってしょうがない。

「あたし…もうダメなのかも…」

「大丈夫だって…」

「こんなに不安になること無いのに…はぁ…」

 籠った声に鼻を啜る音が混じる、知佳はキャスター付きの椅子で彼女へ近付いて、その細い腰をよしよしと摩った。

「ミツキちゃん…何か……細胞レベルでさ、革新が起きてるのかな。その…ホルモンとかが暴走してるのかも、」

「荒ぶってる……は!まさか妊娠⁉︎」

「落ち着いて、生理中でしょ」

「あ、そっか……あれ、あたし、馬鹿なのかしら…」

 自己評価が低めの知佳においても不安になる程に美月は卑屈に成り下がり…夕方の2番休憩の15分を経過しても起き上がる気配が無い。
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