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12月

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 12月の頭、とある夜のこと。

「ねぇチカちゃん、は…初めてエッチしたのって、いつ?」

「は」

 助手席の知佳ちかは運転席の美月みつきからの思わぬ質問に絶句し、しかし正直に

「16…高校生の時…」

と答える。

「ひゃあ…早熟…」


 それは清里きよさと所長の壮行会兼ゆいの誕生日会兼女子会、身重の所長を自宅へ送り届けて美月のマンションへ帰る車内でのことだった。

 この時美月は恋人・高石たかいしとの旅行を1週間後に控えており、その夜に致すかどうか…思い悩んでいた。

「あー、ミツキちゃん…恐いんかぁ…」

知佳が言葉を崩せば美月も釣られる。

「恐いよ…痛いんじゃろぉ?恐いわぁ」

 未知のそれを美月は異常に恐怖の対象として遠ざけて、しかしながら加齢からの焦りや単純な興味により、初のセックスへと思い腰を上げようとしているのだ。

「んー…痛いけど一瞬よ?いや…もう忘れちゃったけどさぁ……高石さんは…優しくしてくれるんじゃないん?」

「そう……?ええ思い出に…できるんかな…」

 これまで大事に取っておいた純潔、美月はそれを失うことを美化しすぎているきらいがある。

「思い出にするつもりなん?」

「え、覚えておきたいじゃん…」

「ミツキちゃん、それを崇めすぎてない?大体、裸になる時点でみっともないじゃん、漫画じゃないんじゃけ」

知佳は故郷の訛りで現実的な意見を述べる。

「確かに…あ、あたし…不様な姿を見せたくないんかも…」

「あるね、美人ゆえの悩みじゃわ…ミツキちゃんなら泣き喚いても血が出てもキレイよ。さっさと散らして、もっとキレイになっちゃいなよ」

「えぇ…チカちゃん…何かあったら電話してもいい?」

「実況中継はやめてよ…」


 知佳のアドバイス?により少しだけ前向きになった美月であった。





 一方、同時期の高石と同僚・千早ちはやも、事務所にて仕事終わりの喫煙タイムをゆるゆると過ごしていた。

「俺さ、今度旅行行くねんけどな、やっぱシてあげるべきなんやろか?」

「…」

 「何を?」と聞き返す気にもならず、千早は肺に入れた煙をぷはーと高石へ吹き掛ける。

「な、何すんねんコラ…ばっちいな、もう…」

「黙れ、何の話してんねん、お前の下ネタなんか聞きたないんじゃ、ボケ」

「いや、深刻な問題やねん…旅行やと特別感あるやろ?ミーちゃんはロマンチックなことが好きやから、そういう雰囲気とかシチュエーションに酔うタイプやねん。したら案外開放的になって、体を任せてもらえるかもしれん、」

「聞きたないねん、自重せぇ、」

千早はあまりの内容に高石の尻へ蹴りを入れた。

「いてっ…な、お前やったら、どうする?」

「は…そんなん、本人と話し合わな…女はできひん日があるやろ…まだ妊娠させてもうたらあかんやろし」

彼はとっても誠実に、下ネタよりは保健体育寄りの方向で高石へ語りかける。

「いやそれが、大丈夫な日やねん…」

「なんで把握してんの…きっしょ、姉さんの周期把握してんの?きっしょ‼︎」

「トイレのカレンダーに書いてあんねんもん…分かるのよ」

「はぁ、ほな…同意があるならシたったらええんちゃうの」

千早は灰皿へ煙草を押し当てて火を消し、ライダースをバサバサと振るって前を閉めた。

「YES・NOを聞くんて…なんや事務的で冷めへん?」

「知るか…サラッと聞いたらええがな、『抱いてええか?』いうて」

「そうかぁ…悩むなぁ…」


 そうこうしながらも隣の駐輪場へ千早は進み、既にバイクへ跨って帰る準備を済ませている。

「一生そこで悩んどけ。俺はチカちゃんで手一杯や、ほなな!」

「うーん…」


 バルバルと大きなエンジン音で千早は走り去り、残された高石はその後も煙草2本分は考え込むのだった。
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