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11月

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 遡って10月上旬。

 とある飲食店を舞台に繰り広げられた棚卸しお疲れ会兼ハロウィンパーティー、高石たかいしはほぼ部外者だがしれっとそこに参加していた。

 若手メンバーを中心に催されたこの会の発案は管理職の嘉島かしまチーフ、幹事で仮装を提案したのは白物担当の松井まつい

 そして何を隠そう、「団体芸として形になりやすいギャル仮装をすれば良い」と美月みつきへ助け舟を出したのが高石である。


「(ミーちゃん…可愛いやろなぁ、更に濃い化粧したらもう…ギンギンになってまうわ…)」

いわばプロデューサーか演出家、高石は誰よりも堂々と中央テーブルへ腰掛けて女性陣の仮装の出来上がりを待っていた。


「よいしょっと…ここ失礼しますね、どうも」

「どうも…あ、なんや飲みます?取ってきますよ」

「あ、すみません…お茶か何かでお願いします」

 高石はドリンクカウンターへ走って烏龍茶を注文し席へ届けた。

 同じテーブルに着いたのは法人事業部の所長・清里きよさとじゅんで、産前休暇までひと月の大きなお腹を抱えていたのだ。

「烏龍茶やけど…大丈夫ですか?」

「1杯くらい大丈夫です、ありがとうございます……あの、どちらの…」

「あぁ、すんません、配送のウツミのモンです。高石言いますー」

「あー、よく店内歩いて……分かった!ミツキちゃんの、わぁ♡」

潤は聞いていた話から高石が美月の恋人だと察し、嬉しそうに泣きぼくろの付いた目尻を下げる。

「そう…なんや聞いてます?」

「はい、あのー…大きくて坊主としか教えてくれなくて…ふふっ…いや、私が転勤したばっかりの頃は一緒に合コンも行ってて…私が言うのもなんだけど、ミツキちゃんはファーストインプレッションで突き進んじゃうから変な人にばっかり告白したりされたり…そう、なんか…いい人そうで良かった…何年か前から友達だったって人よね?良かったですね♡」

「へぇ、ほんまに…フラれるミーちゃんを励まし続けて、酷い目に遭う度にストレスの捌け口になって…ようやく辛抱が身を結びましてね、ふふ」

「いつから?」

「棚卸しの後くらいっすね、前の男に振られてすぐですわ」

「あー、『駅前の服屋のお兄さん』ね、写真見たけどチャラそうで…1週間の。早かったですよね…」

「ねぇ、ちょい考えればええのにね、」

 朗らかに和やかに美月をdisっていると背後に気配がして、振り返ると仮装が済んだ彼女が立っていた。

「わぁ、ミーちゃん」

「何の話してたの?2人面識あったっけ?」

怒っているわけでは無いのだろうが迫力がいつにも増して恐い顔、美月は高石を見下ろして「んん?」と首を傾げる。

「あぁ、ええねー、可愛い、ミーちゃん!強気なギャル、ええわー!」

「ふふ、でしょ?」

とりあえず褒めておだてて、お世辞ではなく本心からなので問題は無かろう、高石はなんならもっと見下して欲しいくらいだと目を爛々らんらんと輝かせた。

「お待たせ♡ジュンちゃん、どう?似合う?」

「アスカ、派手だね…」

続けて声をかけたのは潤のパートナーで元パソコン教室の講師をしていた清里飛鳥あすか…もとい旧姓古賀こが飛鳥。

 ロゼ色のウィッグに濃いメイク、元々ユニセックスな雰囲気だったが彼は今夜女装で現れた。

 関わりが薄かった者は口々に「だれ?」「男性?」と騒めく。

 それもそのはず1年も前に教室を辞めているので顔もおぼろげ、それでなくても在籍中は年中マスクで顔を隠していたので素顔も明らかにされていなかった。

 しかも面長だが女性に見えなくもない、ショービズ用の…ドラァグクイーンの様なメリハリある化粧を施していて地の顔が分からない。

 ちなみに表向きは飛鳥は潤の友人枠での参加となっていて、この二人が夫婦であることは限られたメンバーしか知らないのであった。


「こんばんは…そちらは?」

「こんばんは、元パソコン教室の講師の古賀でぇす☆ん?ミツキちゃんの彼氏?はじめまし……貴方……見たことあるなぁ」

元気に挨拶をした後で、飛鳥はキョトンとした顔で高石を見つめて黙ってしまう。

「アスカ、配送業者の高石さんだよ、店内ですれ違ったりしたんだよ、きっと」

「そっかぁ、ふーん…そうだね、アスカです。よろしく♪」

「へぇ、高石です。よろしく…」

彼からしても聞き覚えのある声…しかしどこでだったか高石は思い出せない。

 腹の奥が沸き立ちムラムラとたぎるような、それでいて自然とひざまずきたくなる衝動。

 高貴さとはまた異なる、崇めたくなるような、己の心の醜さを見透かされるような…圧倒的な高みからの見下す目。

 口元は笑んでいるのにどうしてか、髪と同じ色をしたカラコンの瞳からは本心が読めない。

 そもそも高石が終業後店に入るのは大体18時前後、対して飛鳥の退勤は16時。

 交わるはずがないこの2人、しかし飛鳥の勘は当たっていて、彼らは別の場所で既に出逢っていたのだ。
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