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9月・高嶺の花は摘まれたい
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しおりを挟む「あぁ楽しかった。タカちゃん、泊まって行くわよね?作業着、予約洗濯入れちゃったし、明日休みでしょ?」
高石はそうなるだろうと薄々感づいてはいたが、寝る場所の問題がある。
「…俺はリビングで寝たらいい?」
「ソファーじゃタカちゃんには小さいわ。このベッド使って?」
彼女は自分のベッドを惜しげもなく差し出すつもりでいた。
「…ミーちゃんはどこで寝んの」
「あたしはここの床に敷布団敷く」
「は?あかん。そんなら俺は帰る」
「!なんでよ、やだ、帰んないで」
酔いが醒めかけて独りの夜が怖いのか寂しいのか、美月は子供のような顔をする。
メイクの気丈さとのギャップがありすぎるし、もはや仕事場で見せるシャキッとした姿の面影が無い。
プライベート、特に家では気を抜き切ってしまうのだろうか。
「………なら、俺がリビングに布団敷いて寝るわ。決まりや、んでそろそろ化粧落として」
「分かった……」
美月はそのまま風呂に入ってしまった。
高石は教えてもらった押入れから客用の敷布団を出してリビングに敷き、あとは大きめのバスタオルでも借りようと寝る準備を済ませる。
そしてリビングから繋がるベランダでスマートフォンをいじり、いつもより控えめにタバコを吸って時間を潰した。
「あがりましたぁ~」
風呂場から帰ってきた美月は色っぽいとかではなく無垢な少女のような姿で、それと同時にアルコールも抜け、いつもの美月様に戻りつつあった。
彼女は台所の戸棚から栄養ドリンクを取り、一気に飲みきる。
「……、ぷっはぁ。あー、サッパリしたぁ」
「そんなん飲んで寝れんの?」
「ノンカフェイン、」
と、美月は振り返ってピースした。
男受けしそうな部屋着だろうか、肌触りの良さそうな上着と直視できない生足ショートパンツ、まだ暑いから仕方ないが無防備が過ぎる。
意図があるのか、勘繰りすぎか。
迂闊に手を出して「そんなつもりじゃなかった」と言われたら立ち直れない。
高石は悶々としながらも、眼福とばかりに美月の脚を目で追う。
「…ミーちゃん、バスタオルかなんか掛けるもん貸して」
「ん。待ってて」
そう言うと彼女は廊下へ消え、そして薄い夏布団を抱えて戻ってきた。
「はい」
そして夏布団をソファーの背もたれに降ろし、内側に持っていたタオルケットを高石に渡す。
「さて…タカちゃん、化粧水塗っていい?」
「うん?どうぞ?」
美月は冷蔵庫から何かを出して、敷布団の上に胡座をかいた高石の向かいに座る。
「はい。こっち向いて」
そして手の平に乗せた壺のような容器からジェルを少し取って、自身の指に馴染ませた。
「あ、俺?」
「荒れてるんだもん。これ一個塗るだけでいいからね」
高石は、彼女が正面に座ると早い段階で目を閉じた。
上着から、ショートパンツから、普段見ない部分の白い肌が覗くのだ。
「……」
両手で顔全体にジェルを塗られ、小ぶりな手でむにむにと揉まれるのが心地良い。
「もう目開けていい?」
「大丈夫。明日起きたらぷるぷるしてると思うわよ」
そして彼女も自身の顔にむにむにとジェルを塗り込む。
「ほぅ……寝よか」
高石は考えないようにしていたが、案の定、冷蔵庫に容器を収めた美月が部屋の四隅のダウンライトだけ残して消灯し、彼のすぐ横のソファーに横になろうとする。
「!ミーちゃん、自分の寝室で寝なさい。ミーちゃんにもソファー小さいやろ」
「丸まって寝るタイプだから大丈夫。…だめ?何もしないから」
「それはこっちが言うことや。あかん、ベッドで寝なさい」
「………親みたいな事言うのね」
美月はそう言い捨て、高石に背を向けて寝転がる。
膝を軽く曲げ、背もたれから夏布団を引き摺り落としてその上半身を覆った。
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