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9月・高嶺の花は摘まれたい

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 店から20分ほど走り、新興住宅地の中の高層建てのマンションに着く。

 上がったことは無いけれど通い慣れた美月の家、平面駐車場へ車を入れて助手席の酔いどれを起こした。

「ミーちゃん、着いたで。起きや」

高石は大きな手を反らせ、最小限の面積で美月の頬をペチペチと叩く。

「んー、ん??なんでぇタカちゃんが運転してんの?」

「さっきからそんなに経ってないやろ、忘れたんか」

 この分では服選びの件も覚えてないかもしれない、ここでサヨナラと言われるやもしれない。

 高石はおずおずと降車し、キーを渡して立ち止まる。

「なに?こっちよ」

彼女が振り返って高石を呼ぶ、どうやら行っていいようだ。


 分譲マンションの2階の賃貸部分、独りで住むには広すぎるファミリータイプの2LDKが彼女の部屋だ。

「広…ここひとりで住んでんの?」

「そーよー、でもコネ価格よ。今まで来たこと無かったね。上がって上がって。あ、タバコはベランダでね」

「………」

「なに?緊張してるのかい?」

彼女は高石の肩にもたれ掛かり、声色を変えてじゃれる。


 廊下を進むとそこはあまり物が無いシンプルなリビング、作業着で腰掛けるのが憚られる革のソファ。

「座ってー」

「俺、作業着や、汚れるで」

「…ん?…着替え出そうか。ついでだからシャワー浴びてよ。日中汗かいとるでしょ。ほらほら」

「う、ん、」

高石は案内されるがままに風呂を使わせてもらうことにした。


 今朝美月が使ったままの洗面台、タオル、歯ブラシ。

 指摘すれば怒るだろうが床に落ちた髪の毛も生活感があって嫌いじゃない。

 高石は素早く脱いで浴室へ進むとそのすぐさま脱衣所のドアが開いて、

「タカちゃん、着替え置いとくよ!」

と彼女の声と着替えを置く音がした。

「おぅ、ありがとう……」

危ない、もう少しで脱衣シーンを見られるところだった。


「……」

 さてシャワーを浴びながら高石は、「用意された着替えが過去の男の置き土産」だった場合の心の準備をする。

 普通、ひとり暮らしの部屋に異性の服など置いていない。

 すぐ用意できるあたり、その可能性が高いのだ。

 美月は処女である、しかし体の関係は無かったとはいえ、お泊まりくらいした奴が居たかもしれない。

「(嫌やな…ていうか、俺が着れるサイズなんか?)」

 自分に合わなかった場合いっそ裸で出よう、などと要らぬ事を考え、高石はわりと隅々まで体を洗うのだった。



 シャワーを済ませ脱衣所へ出ると、今まで着ていた作業着がドラム式洗濯機に放り込まれていた。

 床に畳まれたTシャツとハーフパンツ、その横に新品のボクサーパンツが袋のまま置いてあり、そのシャツとハーフパンツには不思議と見覚えがある。

「?どっかで…あぁ!」
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