高嶺の花は摘まれたい

茜琉ぴーたん

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9月・高嶺の花は摘まれたい

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 9月末のある夕方。

 3階倉庫前のホールにて、高石は翌日分の大型家電をエレベータに載せる準備をしていた。

 彼は身の丈185センチ、作業用のツナギが長い脚によく似合っている。

 そこに美月が夕方の小休憩に上がってきた。

「タカちゃん、山奥のモリ様の洗濯機の見積もり行ったでしょ?あの方、冷蔵庫もいけそうなんだけど、ドア幅どうだった?」

「あー、デカい日本家屋やってね、引き戸やったけど外せばいけるんちゃうかな。庭に掃き出しあったし、小上がりさえ持ち上げりゃ大丈夫ちゃうかなー、饅頭くれたし、気前のいいお爺ちゃんやったね」

「そう、よく見てるね。ありがと。来週くらいにまた来られるかも」

美月は手を伸ばし、当然のように構えている高石の頭を撫でて短髪の感触を楽しんだ。

「ほほほ」

「ねぇところで、今日ご飯行かない?」

「ほぅ……ええよ、終わったら連絡するわ」


 食事の約束も手慣れたものである。





 翌日の配送準備を終え、高石は2階の売り場へ向かった。

 美月の定時まであと30分を潰すために入り口付近にあるカフェスペースでコーヒーを頼み、『カフェのとこで待ってる』とメッセージを入れておく。

 終業したら職場からは一刻も早く去りたいものだが、なにぶん1日着倒した作業着では行ける場所が限られるのだ。

 そして自社事務所へは『直帰します、業務報告は明後日に』とメールを送っておいた。


「あれ高石さん、待ち合わせですか?」

「おー、吹竹ふきたけさん、久しぶり。せやねん、わかる?デートよ」

「いいですねー♡」

「しやろ、吹竹さんは浮いた話は無いの?」

「ここんとこサッパリです~」


 買い物をしたらコーヒー引換券が貰えるので美月との待ち合わせに限らず高石はよくここに出没する。

 なのでスタッフとも顔見知りだった。
 
 持ち前の社交性と愛嬌、高石は実は売り場に立たせても成功するタイプなのかもしれない。



『~♪』

「お」

 19時を少し過ぎた頃に美月から返信が入り、高石は従業員駐車場へ向かう。

 薄暗い駐車場でも一際目立つ黒のスポーツカー、彼女の愛車へ腰を屈めて乗り込んだ。

「お待たせ、おつかれさま」

髪を降ろし、シフトレバーに手を掛ける彼女は画になって今夜も美しい。

 いつもはここから車内でジャンケンをして奢りか割り勘かを決めてから向かうのだが、今夜高石には思うところがあった。

「ミーちゃん、なんかあったんとちゃう?」

「……タカちゃんはエスパーなの?」

「いや、数日前の荒れ方と、今日の雰囲気と、食事の誘い、これはあれやな、」

「やめて」

「フラれたな」

「やめてってばーぁー」

美月はハンドルにおでこを当ててグリグリ擦り、伏したまま顔だけ高石に向ける。

「…………ねぇジャンケンしよう?」

「今日は俺の奢りでええよ。何食いたい?」

「………やきにく…」

「ほなそうしよ」

このパターンは10回目、高石の察しも良くなるというものである。

 彼女は彼氏ができると食事に誘っても応じなくなり、別れるとまた遊んでくれるようになる。

 美月曰くこれまでの交際最長期間は3ヶ月、大抵顔目当てか体目当てかお金目当てで、そのほとんどが数回デートしたらサヨナラパターンであった。

 高石が知るだけで10人なので、知り合う前も含めるともっといるのだろうが。

 ワンナイトなどは無く、キチンと手順は踏んでいるので尻軽とも言い切れない、ただ選ぶ男の趣味が悪いのだ。
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