わかりあえない、わかれたい・11

茜琉ぴーたん

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私、勘違いしてた…

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 そして時は数日後、彼氏とのデートの日。

 私はしっかりと、断固として彼とお別れする決意を持ってこの日に臨んでいる。

「(まず、お茶をして、切り出して、お金を置いて、帰る)」

 彼とのデートは大体外で、互いの自宅がどこか詳細は知らない。

 彼は私の家に興味を持たなかったし、食事代もホテル代も払ってくれていたからわざわざ自宅に行くという選択肢が無かったのだ。

 なので、もし追い掛けられても家はバレないと思う。


「(…夢でも見てたみたい)」

 ゆっこの彼氏さんはあの日、

「彼、まともな仕事してるのかな。会社名調べたけど自称コンサル経営者ってのがね、なんか」

と彼の雰囲気とも併せて怪しがっていた。

 私は私で「人との繋がりが大切な事業なんだ」としか聞いておらず、企業の立て直しだったり人材派遣に近いことをしているとしか認識していなかった。

 ゆっこはそんな私を「馬鹿じゃん」と笑っていたが、彼氏さんの

「よく調べた方が良いよ。もしも人を騙して得た金で贅沢してるんだったら貴女も寝覚め悪いでしょ」

の言葉にゾッとした。


 そして私なりにインターネットで検索して、SNSで検索して、地域掲示板で検索して…彼の会社が情報商材屋であることが判明した。

 それ自体は悪い仕事ではないのだが、実態が無いものを高額で、しかもネズミ講方式で販売していることが分かり一気に冷めた。

 なるほど人の繋がり、コネクション。

 売れば売っただけランクアップして位が上がってというやつだ。

 私は勧誘されていないけれど、いずれは会員にならされていたのだろうか。


「お待たせ」

高そうなスーツで、彼が席に着く。

 そう言えば私服って見たことなかったな、休日でも仕事人間ぶりたかったのだろうか。

「あの、今日は話があるの」

「うん?何かな」

コーヒーを注文した彼は、ニコニコと私を見つめる。

 優しい眼差しだけど、今の私には胡散臭く感じる。

「…別れたいの。性格が合わないから」

 突然の申し出に彼は一瞬だけストップして、

「そう、分かった。僕のコーヒーは飲んでくれて良いから」

と早々に席を立った。

 詳しい理由とか掘り下げないんだ、引き留めたいとも思わないんだ。

 脱力すると共に、半年を無駄にしたなぁと情けなさで涙が滲む。

 去って行く背広を目で追って、でもすぐにコーヒーカップで視界を塞いだ。


 絶対にこれで正解だったはずだ。

 私は彼と一緒にいると人間としてダメになる。

 友人も失くして人望も何もかもを失くしてしまう。

 
『♪』

 彼の頼んだコーヒーが席に届いたと同時に、スマートフォンに彼からのメッセージを受信した。

『最後に、僕の何がいけなかったか教えてくれる?今後の糧にするから』

「(丁寧に見せかけて、ぞんざいな感じ…面と向かってだと荒れるから文字にしたのかな)」


 私は『人を見下したり店員さんに偉そうだったりが気になりました。』と返すと、また着信する。

『自分も釣られて偉そうになってたよ?気付いてなかった?今頃同僚にも家族にも友達にも嫌われてるよ?僕なら受け止めてあげられるけど』


「(ムカー)」

 そうやって孤立させて、自分しか拠り所が無いように思わせるのも仲間を増やす手らしい。

 前情報があったので引っ掛からずに済んだ。


 『友人から注意されて踏み止まれました。失礼をした相手にはこれから謝っていきます。もう関わらないで下さい。』と送ったが、それから返事は来なかった。
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