20 / 116
2…胸が躍る
19
しおりを挟む3分ほどして、矢向くんがロコモコ丼を片手に戻って来た。
「いただきます」
「…美味しい?」
「美味いっすね、混ぜもんが少なくて肉感が強くて良い」
「そう」
私も、ご飯をちみちみ摘む。
矢向くんとは会社で二人きりでランチをすることはあまり無い。
彼が入社したばかりの頃は気を遣って誘うようにしていたが、慣れてからはそれぞれに食事をするようにしていた。
社食で隣になったら会話はしていたけれど、それは偶然であって意図的ではない。
今日は特に約束などはしていなかったはず、何を目的に私を探していたのだろう。
まぁ、うっすら分かってはいるのだが。
「元宮さん、あれから1週間じゃないすか」
矢向くんはハンバーグをモグモグしながら、そう問い掛ける。
「な、にからかな」
「言わせるんすか?元宮さんが酔っ払って胸の小ささをひけらかしてジブンが家まで送った日からですよ」
「他の言い方できない?」
「…ジブンが、元宮さんに告った日、ですよ」
分かっている、もうあれから1週間だ。
告白をしたのに答えも貰えず宙ぶらりんなのが嫌で、矢向くんは私と話すタイミングを計っていたのだ。
「1週間、だね」
「そろそろ、返事が欲しいんすけど」
「…矢向くんのこと、嫌いじゃないよ、むしろ好意的に捉えてるんだけど…」
「けど?」
矢向くんは目玉だけこちらを見た。
無気力そうに見えるがちょっと不機嫌さが窺える。
「なんか、告白されたからってそれで気を良くして付き合うのって、不誠実じゃない?」
「普通そうなんじゃないっすか?嫌なら別れれば良いんだし」
「そう、なのかなぁ」
「お互い惹かれ合ってなら同時に恋に落ちてるんでしょうけど、片想いからだとこれが順当なルートだと思うんすけどね」
「確かに…矢向くんは告白されたら好きになった?」
「そりゃ、誠意に報いる努力くらいはしましたよ…ジブンから告白したのは元宮さんが初めてなんで、新鮮っすね…逆の立場はこんな気分なんすね」
とりあえず憎くないなら交際してみて、好きになる努力はする、と言っている。
そして一方的な想いを押し付けるのがこんなに不毛なのかとモヤモヤしているみたいだ。
「それは嬉しいんだけど…矢向くんのことは信頼してるし」
「じゃあ、決定的に受け付けない部分がありますか?俺は元宮さんの胸がどうこうの話も聞いてあげられますよ」
「そういうところだよ」
「……コンプレックスも関係ないって意味なんすけど」
結局、お昼休憩の間に決着は付かなかった。
我々は時計を確認してサカサカとロコモコ丼を平らげて、会社に戻るのだった。
1
お気に入りに追加
26
あなたにおすすめの小説
保健室の秘密...
とんすけ
大衆娯楽
僕のクラスには、保健室に登校している「吉田さん」という女の子がいた。
吉田さんは目が大きくてとても可愛らしく、いつも艶々な髪をなびかせていた。
吉田さんはクラスにあまりなじめておらず、朝のHRが終わると帰りの時間まで保健室で過ごしていた。
僕は吉田さんと話したことはなかったけれど、大人っぽさと綺麗な容姿を持つ吉田さんに密かに惹かれていた。
そんな吉田さんには、ある噂があった。
「授業中に保健室に行けば、性処理をしてくれる子がいる」
それが吉田さんだと、男子の間で噂になっていた。
可愛い女性の作られ方
霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
風邪をひいて倒れた日。
起きたらなぜか、七つ年下の部下が家に。
なんだかわからないまま看病され。
「優里。
おやすみなさい」
額に落ちた唇。
いったいどういうコトデスカー!?
篠崎優里
32歳
独身
3人編成の小さな班の班長さん
周囲から中身がおっさん、といわれる人
自分も女を捨てている
×
加久田貴尋
25歳
篠崎さんの部下
有能
仕事、できる
もしかして、ハンター……?
7つも年下のハンターに狙われ、どうなる!?
******
2014年に書いた作品を都合により、ほとんど手をつけずにアップしたものになります。
いろいろあれな部分も多いですが、目をつぶっていただけると嬉しいです。
お兄ちゃんはお兄ちゃんだけど、お兄ちゃんなのにお兄ちゃんじゃない!?
すずなり。
恋愛
幼いころ、母に施設に預けられた鈴(すず)。
お母さん「病気を治して迎えにくるから待ってて?」
その母は・・迎えにくることは無かった。
代わりに迎えに来た『父』と『兄』。
私の引き取り先は『本当の家』だった。
お父さん「鈴の家だよ?」
鈴「私・・一緒に暮らしていいんでしょうか・・。」
新しい家で始まる生活。
でも私は・・・お母さんの病気の遺伝子を受け継いでる・・・。
鈴「うぁ・・・・。」
兄「鈴!?」
倒れることが多くなっていく日々・・・。
そんな中でも『恋』は私の都合なんて考えてくれない。
『もう・・妹にみれない・・・。』
『お兄ちゃん・・・。』
「お前のこと、施設にいたころから好きだった・・・!」
「ーーーーっ!」
※本編には病名や治療法、薬などいろいろ出てきますが、全て想像の世界のお話です。現実世界とは一切関係ありません。
※コメントや感想などは受け付けることはできません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
※孤児、脱字などチェックはしてますが漏れもあります。ご容赦ください。
※表現不足なども重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけたら幸いです。(それはもう『へぇー・・』ぐらいに。)
『番外編』イケメン彼氏は警察官!初めてのお酒に私の記憶はどこに!?
すずなり。
恋愛
イケメン彼氏は警察官!甘い夜に私の身は持たない!?の番外編です。
ある日、美都の元に届いた『同窓会』のご案内。もう目が治ってる美都は参加することに決めた。
要「これ・・・酒が出ると思うけど飲むなよ?」
そう要に言われてたけど、渡されたグラスに口をつける美都。それが『酒』だと気づいたころにはもうだいぶ廻っていて・・・。
要「今日はやたら素直だな・・・。」
美都「早くっ・・入れて欲しいっ・・!あぁっ・・!」
いつもとは違う、乱れた夜に・・・・・。
※お話は全て想像の世界です。現実世界とはなんら関係ありません。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる