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1…胸に手を置く
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しおりを挟むある日、通販アプリで下着を見ていると好みのものがあった。
しかしタップして大きくなった画像と商品名を確認して、顔が引きつった。
これはその、翌日夜の話だ。
「…なーにが『胸を小さく見せるためのブラ』だよ!隠さず放り出してろよ!もったいない!」
昨夜のことを思い出しつつ呑みの席でくだを巻く私は元宮美紀・28歳、普通の会社員である。
今夜は会社のメンバーを連れて居酒屋へ来ていたのだが、酒も入り同僚と話しているうちに段々と熱くなってしまった。
昨夜私は可愛いナイトブラを探していたのだが、ページを開いてみると『大きな胸を抑える』用途のものだったために文句を垂れているのだ。
私は体格こそ普通なのだが、いわゆる『貧乳』である。
小さいとかいう問題ではなく、鍛えた男性の方がまだあるだろうというくらいの残念な胸板である。
学生時代からコンプレックスだし悩んだし、指摘されて恥ずかしい思いをしたこともあるし何も良いことが無い。
「せめてBくらいは欲しかったよぅ」
普通に暮らしていく上で特に支障は無いのだけれど、たまに思い出す機会があるとこうしてネガティブが爆発して悲しくなってしまう。
気にせずに生きているつもりだ、でも世の中のそれの平均値くらいあれば御の字なのになぁと女だからか思ってしまうのだ。
「よしよし」
同僚の莉子はいつも慰めて落ち着かせてくれるがコイツはDカップあるらしい、共感してないくせに優しくしてくれるのが尚更ツラい。
「美紀ちゃん、男の人もいるからほどほどにね。また愚痴は聞くから」
「莉子は良いよね、おっぱい大きいし」
「不毛なやり取りさせないで。胸が大きくても肩凝ったり大変なんだよ」
「出たぁ、胸大っきいあるあるだ…肩凝るとかボタン留まらないとか贅沢な悩みだ!言ってみたい、言ってみたいぃ」
「もう、いい加減にしなよ」
莉子は周りを気にしつつ店員さんにお水を頼んでくれて、「この子お願い」と隣の男性社員に言伝をしてトイレへと立ってしまった。
「…元宮さん、声大きいっすよ」
斜め前から宥めたのは後輩の矢向朋也・26歳、届いたばかりのお冷を私の前へ置き、莉子が座っていた座布団へ移動して少し前のめる。
さらっと塩顔の無気力系、見た目は悪くないように思うが彼は愛想の無さに定評がある。
同じ部署なので会話はそこそこするのだが、掴み所が無いというか食えない感じがするというか…まぁ会社の同僚とそこまで馴れ合わないのは今どき当たり前か。
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