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2020・初春(最終章)
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しおりを挟む5月上旬。
潤が仕事に戻って半月、時短業務だし会社側もシフトを融通してくれるので忙しくも家族との時間は取れている。
しかしながら夫婦の営みは未だなし、夫も辛いだろうしそろそろ誘ってみようかと考えていた。
「ただいま…」
「おかえりぃ、遅かったね」
くったりしてリビングに入った妻へ、赤子を抱いた夫は嫌味ったらしく挨拶をする。
「…仕事なんだもん…ごめん」
その夜潤は仕事の引き継ぎ漏れがあったために、彼女が不在の間法人事業部を守ってくれていた和田フロア長と打ち合わせをすることになっていた。
web会議用のカメラとインカムを借りて1時間程の話し合いであったが、それでも帰宅した頃には時計の針は20時をゆうに回っていた。
知らされていた予定通りではあるものの飛鳥は不機嫌をぷんぷんと漂わせている。
「あのイケメンのフロア長だよね、ボクより背が高くて。ジュンちゃんがカフェでデートした」
「あれも仕事だってば…」
それは昨年の同じ頃、飛鳥がブチ切れて潤へ酷い折檻を加えた件の原因のことである。
家具屋で偶然会った和田と潤が隣のカフェで仕事の話をしたという…それだけのことなのだが飛鳥はいまだに気に食わないらしい。
「ボクと仕事、どっちが大事なのさ」
「アスカだよ、いただきます……うん、美味しい♡これ何でできてるの?」
「…豆腐と長芋…これならとろろ苦手でも食べられるかと思って…」
「うん、美味しい。家に帰って綾ちゃんとアスカが待ってくれてて、あったかいご飯ができてて嬉しい♡アスカは天才だね、いつもありがとう、」
喧嘩をけしかけたってこの子には通じない、飛鳥は
「…ボクの役目だから……どういたしまして…」
と返して口を尖らせた。
「明日、アスカの誕生会しようね、何か作るから」
「無理しないで、(後片付けが大変だから)」
「そう?じゃあケーキでも買おうか……アスカ、綾ちゃん最後にお乳飲んだのいつ?」
「3時間前かな、よく保ってるよ」
「ん、………ごちそうさま!寝かしつけるから、お風呂入ってきて、疲れてるでしょ」
「うん、分かった…」
早食いした潤はもう首も据わった娘を受け取り、寝室で寝かしつけに入る。
彼女が仕事中だったり不在の時には冷凍した母乳を哺乳瓶であげているが、こうしてタイミングが合えばしっかりと肌を合わせて授乳させていた。
「飲むねぇ…ふふ」
娘の成長を感じられる至福のひと時、接する時間は短いし不器用でこの先調理も夫任せになるだろうが、ホワホワとした母性をしっかりと育んでいる。
娘が頑張って飲んでいると飛鳥が扉を開けて、
「あの、さ、ジュンちゃん…その…明日、ボク誕生日でしょ?」
と自信なさげに問いかけた。
「うん、そうだよ?え、違った?」
「違わない、合ってる…その…綾ちゃんも朝まで通して寝ることが増えたからさ……前払いじゃないけど、ボクにジュンちゃんとの時間をとって欲しい、ん、だけど…プレゼント的な…ダメかな」
「え、いいよ、」
「でも、あの…その…イチャイチャ…したいんだ、セックスじゃなくて、その…ラブタイムみたいなの…」
「うん…分かった、しっかり飲ませて寝かせるね、」
妻の答えを聞けば飛鳥は安心したように、しかし哀しげに笑って風呂へと向かう。
「(久しぶりのお誘い…)」
性豪の飛鳥だがセックスをしたのは娘が生まれる前のあの1回が最後で、意外や産後は3ヶ月半経過した今でもレス状態であった。
「(いたわってくれてるんだろうな…また避妊失敗して無計画に妊娠しても困るし…それとも私に魅力が無くなっちゃったのかな…)」
次の生理が来るまでは不用意な妊娠の可能性を下げるためにも性行為は避けるのがベターだろうが、なにぶんここまで期間が空くと自分に原因があるのではと潤も心配になっている。
しかしてイチャイチャとはどこまでなのか、どうして挿入は無しなのか。
その辺り尋ねて答えてくれるだろうか…長いまつ毛の娘の瞼が落ちてきて、潤はスタンドライトを消した。
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