上 下
98 / 113
2019・梅雨

96

しおりを挟む

 さて各種手続きはしたものの、姓が変わらなかったため潤の結婚情報は広まるのが遅く、彼女の腹が目立ち出してから事情を知らない者たちは驚いたようだ。


「所長、早番の朝礼できちんと発表しない?未婚の母だと思われてるけど不都合ない?」

「んー、どっちでもいいですけど…チーフに任せます」

 チーフフロア長・嘉島かしまの提案で遅ればせながら全体へ結婚・妊娠報告をして、潤は労られながら日々の仕事をこなしていった。


 そして半月後の飛鳥の帰郷で同棲再開、夫婦らしい生活が始まる。

「ジュンちゃん、そろそろ新しいブラ…もっと柔らかいやつ買わない?産前産後はきっともっと大きくなるよ」

「んー…任せるぅ…きぼぢわるい…」

「はいはい…」

飛鳥は洗濯物を畳みながらソファーに寝そべる潤を労り、片手でその腹を摩る。

「あんまりママを困らせるなよ、ベビちゃん…」

「ふぅ…悪阻つわりっていつか終わるのかなぁ…」

「そりゃそうだよ…長い人もいるけどね…無理しないで、何かして欲しいことある?」

「ん、キス、して」

顔を覗き込めば潤はパッチリと目を開き、ムニと笑って眼差しでおねだりをしてみせた。

「しょうがないな、ん♡」

「ん♡」

「安定期に入ったら…セックスしよう、ジュンちゃん…」

「うん♡」


 覆い被さったまま二人は抱き合い、以前より高い体温も、少しふっくらとした身体も、化粧ノリが悪くなった素顔も潤の全て全てを飛鳥は愛おしく大切に思う。

「愛してるよ、ジュンちゃん♡」

「んー、ナンバーワン?」

 潤がわざと皮肉でそう聞けば、

「オンリーワンだよ」

と飛鳥はバツが悪そうに答えた。

「必然よね?運命よね?」

「そうだね、なるべくしてなった運命…かな」

半分は本心、もう半分は建前…リップサービスでも己を曲げなかった飛鳥が簡単に「運命」と口にする。

「私じゃなきゃダメでしょ?」

「そうだね…ジュンちゃんはボクじゃなきゃ面倒見きれないだろうね…」

めくれたスカートの裾を直し、洗濯物へと手を戻した。

「もう、ちゃんと言ってよ…ぶー」

「ジュンちゃんじゃなきゃダメ。君以上にボクに合う人は居ない、……これでいい?」

「録音できなかった、もう1回、」

「やぁだよ、」


 流し目で潤を見遣っては「ふは」と笑い、手を動かす飛鳥は幸せそうに目を閉じる。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

♡ちょっとエッチなアンソロジー〜アソコ編〜♡

x頭金x
大衆娯楽
♡ちょっとエッチなショートショートつめあわせ♡

♡ちょっとエッチなアンソロジー〜おっぱい編〜♡

x頭金x
大衆娯楽
♡ちょっとHなショートショート詰め合わせ♡

生贄にされた先は、エロエロ神世界

雑煮
恋愛
村の習慣で50年に一度の生贄にされた少女。だが、少女を待っていたのはしではなくどエロい使命だった。

【R18】隣のデスクの歳下後輩君にオカズに使われているらしいので、望み通りにシてあげました。

雪村 里帆
恋愛
お陰様でHOT女性向け33位、人気ランキング146位達成※隣のデスクに座る陰キャの歳下後輩君から、ある日私の卑猥なアイコラ画像を誤送信されてしまい!?彼にオカズに使われていると知り満更でもない私は彼を部屋に招き入れてお望み通りの行為をする事に…。強気な先輩ちゃん×弱気な後輩くん。でもエッチな下着を身に付けて恥ずかしくなった私は、彼に攻められてすっかり形成逆転されてしまう。 ——全話ほぼ濡れ場で小難しいストーリーの設定などが無いのでストレス無く集中できます(はしがき・あとがきは含まない) ※完結直後のものです。

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

【完結】俺のセフレが幼なじみなんですが?

おもち
恋愛
アプリで知り合った女の子。初対面の彼女は予想より断然可愛かった。事前に取り決めていたとおり、2人は恋愛NGの都合の良い関係(セフレ)になる。何回か関係を続け、ある日、彼女の家まで送ると……、その家は、見覚えのある家だった。 『え、ここ、幼馴染の家なんだけど……?』 ※他サイトでも投稿しています。2サイト計60万PV作品です。

処理中です...