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2019・梅雨
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しおりを挟む2週間後。
「ジュン、最近顔色悪ない?化粧品変えた?」
終業後、同僚の唯は不躾だが本気の表情で潤の顔を覗き込む。
「貧血気味なのかも。大丈夫だよ」
「ふーん…アイツ…彼氏は元気してんの?」
「今ね、大阪に出張してる。…SEもしててね、大きい病院の電子カルテの立ち上げに張り付いてて、しばらく留守なの。元気とは言ってたよ」
「そら寂しいな、ふーん……なぁ、困った事とかあったらすぐ言えよ?」
血色の悪い顔で澄ます潤を心配し、唯はその腰にしがみ付いて辛そうに声を出した。
「大丈夫だよ、ユイこそ…なんかしんどいんじゃないの?最近イライラしてる」
「なんもあれへんよ、新人研修で疲れとるだけや、うん…もうちょいで手も離れるしな、大丈夫や…」
「そう…お互い、無理しないでいこうね」
仲はいいが簡単に話せるトピックではない、潤も小さな唯をぎゅうと抱き締め返して別れ、駐車場へと降りる。
夕陽は沈んだが雲が薄紫色に染まって幻想的、西の空を見上げながら駐車場を歩けば隣の市道をタクシーが徐行し、ドアの開閉音とがさがさ紙袋の揺れる音がした。
「ジュンちゃん!」
潤が自分の車に近付いたら後ろから聞き覚えのある声がして、駐車場の入り口から荷物をたくさん提げた飛鳥が駆け寄って来ていた。
「え、あ、」
「最速で終わらせて帰ってきた!お土産もあるよ、話聞きたくて、駅からタクシーでそのまま来ちゃった。良かった、帰るとこだったんだね、ギリギリだったなぁ。ふー…まだ調整はあるんだけど、とりあえず明日は休みだから一緒に……え、ジュンちゃん⁉︎」
こんな僅かな距離を走って息を切らして、責めるでもなく明るく笑って会いに来てくれた飛鳥を見れば、堰を切ったように潤の気持ちが溢れ出してしまう。
「あ、スかぁ……あ、あー…ふゎあ~ん…」
「なに、そんなに寂しかった?どしたの…ボク運転するから…お家に帰ろうね、」
「ア、すか…っぐ…ふぇ…」
「うん、ここ居るよ、乗って乗って…よしよし、帰ってご飯食べようね、見て、豚まんも買ったんだ、ボク初めてで…」
「うん、ひぐっ…」
「ね、うん、閉めるよ、」
飛鳥は安全運転で、えぐえぐとしゃくり上げる潤を励ましながらマンションまで帰った。
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