先生、マグロは好きですか?

茜琉ぴーたん

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2019・新春

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「ねぇ、アスカ、」

「ん、なに?」

「さっき先生は不機嫌になったって言ってたけど、話し終わった時は彼女すごくうきうきしてたんだけど」

「あ、気付いちゃった?ちょっとね、ジュンちゃんへの報復が怖かったから、『でも小さい君も可愛いね』って最後に耳元でこう…ちょっとね、囁いたというか…ふふっ…気になっちゃったか」

「私が指摘しなかったら黙ってるつもりだったの?…昼間に『男性は小さい女性が好き』ってアピールされたばっかりだったから…なんか…勘繰っちゃって…ここに来るまで…結構不安だったのに…」

食事を静かに咀嚼そしゃくしながら、潤はもじもじと視線を泳がせる。

「ふふ、ごめん、もうしないよ…ジュンちゃんが好きだからね。しかし…まぁ本当小さいね、あの子。あれだけ小さいと駅弁とか楽そう」

「えきべん?」

「立って、繋がったまま抱っこするんだよ。駅のお弁当売りのこう…首から吊るす台、あれを連想するみたい」

「へぇ…」

性の文化には疎い潤はなんとなくの想像をして、それを自分の姿に置き換えてみたが違和感を覚え途中やめにした。

「ジュンちゃんだってできるよ?後でシてあげるよ」

「え、無理でしょ、私重たいもん」

「よく言うよ、美容体重のくせして…担げるよ、長時間は難しいけど…お姫様抱っこだってできたし…うん」

呆れたように、しかし奮起するように飛鳥はそう言い、手をにぎにぎと開いて閉じて…その力を誇示する。


 自分が大柄だから潤は難しいと思ったのに、彼は「自分が非力だからできない」と受け取ってしまった。

 その伏せた目元には言動の割に自信が感じられない。

「…ねぇ、もしかして、アスカは…自分の体型にコンプレックスがあったりする?」

「!」

 つぐんだ唇がぴくと動いて、数秒止まった後に

「……ある、よ…もっと…筋肉とか付けたいけど体質だろうね、大きくならない。『小柄だと腕に包まれて…』とか言ってたけど、それなら男が大きければ問題なく包み込める訳で…胸板も厚くなりたいし…夏に言ったけど肌も弱くて日焼けできないし…もっと男らしくなりたかったね」

と、頬をポリポリ掻きながら飛鳥は恥ずかしそうに告白した。

「そう、なんだ…」

「ジャケットとか大人カジュアルみたいな気取った服ばっかりだけど、Tシャツにジーンズとか…シンプルに男らしい格好が似合う見た目に生まれたかったよ」

「それ……似合うと思うけど…」

「細いからね…なんかブカブカで…理想型にならない。着たい服と似合う服は違うね、髪だって…短い方が楽だろうけど…天然パーマなんだ、」

日によって天候によって伸び縮みするその髪は纏まりにくく、短髪にすると爆発するため伸ばして括る方が都合がいいらしい。

「あ、アスカのゆるふわの髪、わ、私好きよ、キレイだもん…」

「ありがと、悩みって尽きないよね、ふふ」

「あ……空知先生もさ…コンプレックスだったりするのかな…肯定したくて…私と比べて…」

「自己肯定で他人の批判をしちゃダメだよ、反則。比べずに……自分らしく生きていけたらいいよね…永遠の課題だね」

困った顔で笑う飛鳥はいつもより幼く見えて、しかしなにかスッキリと晴れやかな表情をしていた。

「そだね…」

「あとさ、お客さんからのお褒めの言葉、本人に伝えてあげてる?やっぱり評価がないとやる気もでないよ」

「あれって派遣元の本社から伝わるんじゃないの?」

「ないない。生徒数と実働時間くらいしか講師からの報告もないし」

「そうなんだ…そういえば言ってない…そっか…評価…か、」

「ごちそうさま……食べたらお風呂入って……ジュンちゃん、エッチしよう♡」

「う、ん、」


 真っ直ぐ見つめてそんな予告をされると潤は照れてしまい、先ほどよりも多めに咀嚼をして時間を稼いでしまう。
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